医者のメンタルヘルス - 心の病気・カウンセリング - 専門家プロファイル

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閲覧数順 2024年12月10日更新

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救急部・手術室・ICU(集中治療室)をはじめ、内科・外科、産婦人科・小児科などでは24時間・365日、医療が行われています。怪我や病気には、昼も夜も、平日も休日もなく、常に医療・看護が求められます。これに対し、看護者は日勤・準夜・深夜など交代制のシフトを組み、夜間・休日も勤務しています。医者は当直制があるものの、主治医の場合は夜間・休日も対応することが少なくありません。生死のかかった状況や主治医でないと判断できない困難な状況においては、患者さんへの治療はもとより、ご家族への説明なども、主治医が対応するものです。

このため医者が疲労困憊することが昨今、社会問題になっています。「燃え尽き Burnout」と呼ばれる、心身が消耗し職務への意欲を喪失した状態はもとより、精神医学的に評価すると、適応障害、うつ病と診断されるような病的状態が認められます。日本医師会「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」の調査(1万人)によると、8.7%の医者が軽度から中等度以上のうつ状態に相当したそうです。うつ病一般人口の時点有病率が2.2%とされていますから(こころの健康についての疫学調査に関する研究)、単純な比較はできないものの、かなり高い割合の有病率といえます。

しかしその中で、どの程度の医者が適切な医療を受けているかは明らかになっていません。うつ病をはじめ精神疾患として受診することは医者の間でも抵抗あり、タブー視されていると言っても過言ではありません。医者は「病んだ人を助ける強い人であるべき」という固定観念があり、自らの弱さを認めようとしないからです。さらに上司・同僚・部下など周りの目も気にします。うつ病では「頼りにされなくなる」「ダメな人間と思われる」と不安になったり、さらに「診療できなくなる」「免許を取り上げられる」といった妄想的な不安を生じることもあります。これらは精神疾患に起因する偏見・差別にもとづく不安といってよいでしょう。

この結果、医者の自殺は高頻度に生じています。アメリカでは毎年300-400人の医者が自殺しており、これはアメリカの医学校1校分に相当するそうです(1)。一般人口に比較すると、男性の医者は1.41倍女性の医者は2.27倍に相当します。女性の医者が特に高率となる理由として、セクシャル・ハラスメントが多い、独身で子供がいない場合、仕事と家事により負担が倍増する、などの心理・社会的要因が挙げられています(2)。

うつ病が最大の危険因子ですが、薬物依存・アルコール依存を併発することも多く認められます(3D: Depression, Drugs, Drink と呼ばれます)。薬物依存は特に精神科、麻酔科、救急の医者に多く認められます。普段の診療で向精神薬や麻酔薬のような依存性の高い薬物を扱っており、入手しやすい環境にあるためと考えられています。一般人口で飲酒・酩酊時に自殺が多いことや一般女性が非致死的な手段を用いることと対照的です。医者の自殺は自分の職場から入手した薬物により完遂することが特徴です(3)。

うつ病の治療をするはずの精神科医の自殺が高いことは矛盾したような話ですが、1967-72年のアメリカにおける大規模調査でもそのような結果が認められました(4)。さらにこの結果に基づく計算によると、3人に1人の精神科医が感情障害に罹患していることになるそうです。この高い割合の理由として、精神科の仕事が感情障害を引き起こす可能性よりも、感情障害の医者が精神科を専攻する可能性が考察として挙げられています。ただし、精神科医と一口いっても、当時と現在、アメリカと日本、総合病院と単科病院、など様々な違いが考えられますので、一概には言えないでしょう。あくまでも一つの統計結果として見るのがよいでしょう。

このような調査は日本国内で行われていません。警察庁の「自殺の概要」によると、医者の自殺は、平成16年:79人(男69人、女10人)、平成17年90人(男79人、女11人)、平成18年90人(男85人、女5人)でした。平成19年以降は医療・保健従事者と概算され、医者の自殺の実数は明示されなくなりました(平成19年298人、平成20年319人、平成21年338人、平成22年374人)。欧米の調査でも、実際はより多くの自殺が生じているけれど、本人の名誉や遺族の心情など考慮して、病死や事故死とされている場合が少なくないようですから、日本でも実際はより多くの自殺が生じていると思われます。

いずれにしても、医者の自殺/うつ病/メンタルヘルスへ注意する必要があることは確かです。医者の健康は本人やその家族もさることながら、患者さんへの治療にも関わる問題です。医療事故を防止し、より良い治療を提供するためには、医者の健康にも注意しなければなりません。先の「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」からは下記の提言がされています。

医師が元気に働くための7ヵ条
1. 睡眠時間を充分確保しよう
2. 週に1日は休日をとろう
3. 頑張り過ぎないようにしよう
4. 「うつ」は他人事ではありません
5. 体調が悪ければためらわず受診しよう
6. ストレスを健康的に発散しよう
7. 自分、そして家族やパートナーを大事にしよう

勤務医の健康を守る病院7ヵ条
1. 医師の休息が、医師のためにも患者のためにも大事にと思える病院
2. 挨拶や「ありがとう」などと笑顔で声をかけあえる病院
3. 暴力や不当なクレームを予防したり、組織として対応する病院
4. 医療過誤に組織として対応する病院
5. 診療に専念できるように配慮してくれる病院
6. 子育て・介護をしながらの仕事を応援してくれる病院
7. より快適な職場になるような工夫をしてくれる病院

それでも、残念ながら罹患された時には、速やかに受診することが望まれます。早期発見・早期治療がいかなる疾患においても、進行を止める最善の方法です。しかし前記のように、医者の間でも精神疾患として受診することには抵抗があります。自分の勤めている病院の精神科へ受診したら、同僚にカルテを閲覧される可能性もありますから、もっともなことでしょう。アメリカやカナダではこのような個人情報保護に配慮した医師のためのメンタルヘルスサービスが整備されているそうです。日本では国民健康保険の兼ね合いから、多少の制限は生じるでしょうが、プライバシーには十分配慮した診療形態が望まれます。銀座泰明クリニックへも医者をはじめ医療従事者が多く受診されています。皆さん自分の勤める病院や診療所はあえて避け、夜間・土日にいらっしゃっています。つきましては、以上ような状況を考慮のうえ、微力ながら尽力してまいりたいと思います。

(1) American Foundation for Suicide Prevention. http://www.afsp.org
(2) Schernhammer E. Taking their own lives - the high rate of physician suicide. N Engl J Med 2005; 352: 2473-6)
(3) K Hawton et al. Suicide in doctrors: a study of risk according to gender, seniority and specialty in medical practitioners in England Wales, 1979-1995. J Epidemmiol Community Health 2001; 55: 296-300.
(4) Rich CL and Pitts FN. Suicide by psychiatrists: a study of medical specialists among 18730 consecutive physician deaths during a five year period, 1967-72. J Clin Psychiatry 1980 ; 41: 261-263.

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