(続き)・・ウイルスは寄生している細胞の中で、その細胞の器官や酵素を利用して増殖することが可能です。インフルエンザの場合、8時間で約100倍、16時間で約1万倍と爆発的に増殖し、48時間後には何と約1兆倍にまで達すると言われています。細胞内で仲間を増やしたウイルスは宿主の細胞を突き破って体内に拡散し、他の細胞を次々と占領していき、しまいには生体を死に追いやることさえあるのです。
そのように増殖力の桁外れに強いインフルエンザウイルスですが、常にそうして増殖を繰り返し、宿主の動物を苦しめているかというと、必ずしもそうとは限りません。例えばニワトリなどで流行を繰り返す鳥インフルエンザは、もともとカモなどの水鳥の腸内に寄生し、持ちつ持たれつの関係で「共存」しています。つまりカモ体内がウイルスにとって居心地が良いために、無理に増殖する必要がないのです。
これがニワトリや人間など共存関係にない動物に侵入した場合には、ウイルスと宿主との競合関係になってしまいます。つまり宿主の免疫力が勝ってウイルスを駆逐するか、ウイルスの増殖力が勝って宿主を乗っ取るか、といった競争的な構図になるのです。ただこの場合も、宿主とウイルスとの間に或る種の均衡状態が成立した時には、「常在ウイルス」となって共存することが往々にしてあります。
基本的に人間がインフルエンザウイルスとの共存関係にない以上、それによる感染や発症を未然に防いだり、流行を最小限に抑えるためには、ウイルスをなるべく体内に侵入させないことと、人体の免疫力を充実させてウイルスに負けない状態にする、といった方向性が求められます。これはインフルエンザであっても一般の風邪であっても、また他のウイルス感染症であっても同じことです。
通常のウイルス感染症であれば、感染から5~7日程度で体内に「抗体」が出現し、そのウイルスに対しては免疫が成立します。その状態では、その後同じウイルスが侵入しても抗体がウイルスを迅速に排除し、病気は発症しないとされます。はしかなどの病気が「二度かかりなし」とされるのは、そのような仕組みによります。この仕組みを逆手にとって人為的に免疫を成立させるのがワクチンです。
ところがインフルエンザに関しては昨年来の「新型」のように、20~40年に1回くらいの頻度で新顔が登場し、ワクチンが効かないとかいって、上を下への大騒動に発展します。また実際に多くの方が罹患し、死者も多数出てしまいます。過去にはスペイン風邪、アジア風邪、香港風邪、ソ連風邪など多くの新型インフルエンザの登場がありました。それはいったいどのようなメカニズムによるのでしょうか・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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