- 牛田 雅志
- ブレインリンク・コンサルティング株式会社
- 税理士
対象:会計・経理
6月11日に金融庁は企業会計審議会の中間報告で「IFRS」の採用に踏み出しました。
IFRSとは「国際財務報告基準」のことで、EU域内の上場会社が2005年に強制適用して以来、世界中で100ヶ国以上がすでに自国の会計基準としての採用を目指しています。EU以外でも、中国・ブラジル・インド・韓国・カナダが2011年までの適用を決めています。
こんな世界情勢の中、自国の会計基準にこだわり続けて来た日本も、2010年3月期からの任意適用を開始することになりました。さらに、2015年に上場企業への強制適用の可能性を盛り込んでいます(最終判断は2012年です)。
このIFRSという国際会計基準が中小企業にとってどのような影響を及ぼしていくのか、「品格経営」という切り口から少し掘り下げてみたいと思います。
決算書からB/SとP/Lがなくなります!?
「え〜!B/SとP/Lがなくなるって?やっと自社の決算書が読めるようになってきたのに。困るなあ・・・。」
と社長からタメ息が聞こえてきそうですね。
でも、そうなのです。
今まで見慣れた貸借対照表と損益計算書はすでになくなってしまったと言っても過言ではありません。
IFRSでの財務諸表は、「財政状態計算書」(←貸借対照表)と''「包括利益計算書」''(←損益計算書)という名前に変わっています。
もちろん、名前だけの変更ではありません。中身も変わっているため一から覚えなおさなくてはいけません。
財政状態計算書って
「貸借対照表とどこが違っているのだよ!」
左に資産、右に負債、右下に資本と覚えてきた社長にとって、財政状態計算書は少しややこしいです。
表示としては、「事業」「財務」「廃止事業」「法人所得税」「所有者持分」に区分され、事業はさらに「営業」と「投資」に分けられます。今までは、資産及び負債を「流動か固定か」「回収可能なのか」「支払義務があるか」という基準で表記してきました。IFRSでは、全く違った切り口で会社の内容を表現させようとしています。
特に卓越に思う区分は「廃止事業」というカテゴリーです。事業を廃止(売却)する予定も含めて、その廃止事業に係る資産・負債をまとめて表示することになります。会社は、継続事業か廃止事業かという経営判断も正直に表現することが必要になるのです。
包括利益計算書って
「こんどはどこが違っているの?」
売上高に始まって本業のもうけを示す「営業利益」、財務活動を含めた「経常利益」、臨時的な損益を加味した「当期利益」で業績を把握してきた社長にとって、包括利益計算書も少しややこしいです。
表示としては、「事業」「財務」「法人所得税」「廃止事業」「包括利益」に区分され、事業は同じく「営業」と「投資」に分けられます。包括利益計算書では、「経常利益」や「特別損益」がありません。要は、企業経営において臨時的・異常事象はもはや毎年起こる「当たり前の事象」であり、特に他の利益と区分して表示する必要なしということです。
そのかわりにIFRSは新たな利益の概念として「包括利益」を導入しました。
包括利益って
「包括利益なんてチンプンカンプンだよ!」
包括利益というのは日本では全く耳慣れない言葉です。
簡単に言うと、包括利益は、資産から負債を差し引いた純資産が期首から期末までにどれだけ増えたかで計算されます。
期末の純資産額 ― 期首の純資産額 = 包括利益
今までなら、単純にP/Lの当期利益がB/Sの純資産に内部留保として加算されていきましたが、IFRSでは、この純資産の増減に、「当期利益」+「遊休地などの固定資産の価値の動き(当期に発生した未実現損益という)」を反映させました。
未実現損益について詳細は述べませんが、要は、会社の利益は損益から導かれるものではなく、純資産の増減から導かれるものになったのです。
最後の違い
「まだ、あるの〜。もう勘弁してよ!」
今までと大きく違う点があと一つあります。
IFRSは「原則主義」です。
「じゃあ、日本は原則主義じゃなかったの?例外主義だった?」
日本の会計基準は米国基準を見習った「規則主義」です。米国基準は詳細な規則を設定しますが、IFRSは原則のみを規定し、詳細は決算書作成者の判断に任せようというのです。
日本では、米国基準ほどではないにしろ、詳細な会計基準が決められているのでルール通りにやっていれば、他からケチをつけられることはありません。「みんなも同じことをやっている」という日本人得意の横並び意識です。
原則主義は違います。ルールは自社で決めなければなりません。他の会社は関係なく「ひとりひとりが考える」という自立した意識が必要になります。
スポーツの例にたとえるなら、今日まで監督が決めた練習にどっぷりつかっていた選手が「優勝に向け明日からは自分達で練習を考えろ!」と突き放された感じでしょうか。選手達は「優勝するために何をすべきか?」という大原則に照らした判断が求められるのです。