スポーツの国際大会などでは、よく“アウェーの洗礼”などと言われる時があります。
例えば、相手国で開催されるサッカーの国際試合に関する話では、指定の練習場でロッカールームもシャワーも使えない、指定された宿泊先の部屋にはエアコンがない、エレベーターが壊れていて、20階以上の部屋まで階段を上り下りさせる、夜中じゅう部屋の電話が鳴り続けるなどという話を聞いたことがあります。
このすべてが、仕組まれた“アウェーの洗礼”なのかは何とも言えませんが、こんな予期せぬことが日々起きるような海外での不自由な経験や、不利な環境を押し付けられてもそれに耐えるような経験は、選手としてのその後の成長につながっていくというようなことも言われます。
この話から思ったことは、私自身の仕事の変化の中で起こったことです。
今の私の仕事環境は、自分が代表者ということもあり、「一人で客先に行って一緒に仕事をする」「知り合いが誰もいない会合や研修に出向く」「初対面の方とお会いする」というような場面が圧倒的に多くなっています。言ってみればほとんどが「アウェーな環境」という感じです。
これに対して、独立前の会社員時代のことを思うと、当時はほとんどがホームといえるような環境だったと思います。取引先や営業の人たちは自社に出向いてくれることの方が多いですし、仕事をしている中では常に周りに上司や部下、同僚がいます。
どこかへ出かけるとしても、他の人と一緒か、一人であってもそれほどアウェーな感じを持たなくても良いような場所がほとんどでした。
部門長としての役割が多くなるにつれて、アウェーな場面は少しずつ増えましたが、それでも今とは比較にならない少なさでした。
もちろん立場や役割や職種による違いはあって、いきなり一人で海外赴任などということもあるでしょうが、それでも企業に属していれば、常に誰か味方がいるという感じがします。「アウェーな経験」の少ない人が大半ではないかと思います。
私も今でこそアウェーな感じは嫌いではなく、逆に未知の経験を楽しみにしていたりしますが、会社にいた当時はあまりそうではありませんでした。そもそも知らない人に会って人脈を広げようとも思っていませんでしたし、そんな必要性もあまり感じていませんでした。
必要なのは上司・部下・同僚、その他関係先の既知の人たちとうまく交流することで、その方が仕事上のメリットも大きかったということです。
最近ある方からうかがったお話で、大企業にいる人ほど内向きな価値観が身に付いてしまっていて、いざ転職や出向などで社外に出ても、なかなかうまくいかないことが多いということを聞きました。そんなことも、実は「アウェーな経験」が少ないからではないかという感じがします。
大企業であれば、ほとんどのことが自社内で帰結できますし、社外との交流も、自分たちの方が強い立場であることの方が多いでしょう。また、辞めずに定年まで働こうという人が大半ですから、ずっと付き合う社内での人間関係が最も大事なことになります。なおさら「アウェーな経験」は不要ですから、仕方がないのかもしれません。
ただ、先行きが不透明なこれからの時代は、そうはいきません。自分の成長のために、「アウェーな経験」が必要なことは、スポーツの世界に限らないことです。
そうは言っても、企業に属していると「アウェーな経験」をする機会自体があまり多くないかもしれません。それをあえて経験するには、自分で意識した取り組みをすることが必要になってきているように思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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