【『好き』ってなに?】悩める若者へのレクチャー 6 - 住宅設計・構造全般 - 専門家プロファイル

須永豪・サバイバルデザイン 
長野県
建築家

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対象:住宅設計・構造

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【『好き』ってなに?】悩める若者へのレクチャー 6

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建築的
大学生へ向けてのレクチャーで話したことの続きです。
 
【『好き』ってなに?】
 
あなたはさ、『やりたいこと』『好き』なことって
わかってる?
 
うん、そうなんだよね、そこがまずわからんよね。
 
建築学科に居るってことは、
ま、建築がキライじゃないんだろうけど、
一生を捧げるほど好きかって言うと、
 
…そだね、わからんよね。
 
 
 
私はね、見てもらったように木の建築を作ってる。
あ、基礎のコンクリートを除けば。
 
だいたい、素材の85%が木、10%が金属、5%ガラスとか樹脂かな。
コレくらいのバランスが、私にとっては最高なの。
 
 
今は木造って言っても、
骨だけが木で、あとがジャンク素材のハリボテでしょ。
あれが気持ち悪くてしょうがないんです。
 
でも「あ、オレ木が好きなんだ」って
気がついたのは、最近なんだよね。
 
 
それまでずーっと、
「須永さんは木が好きなんですね」ってまわりから言われるたびに、
 
「いえ好きなわけじゃなくて、
木は、釘が打てて、加工がしやすくて、硬すぎず柔らかすぎす、
 
肌で触れて冷たくなくて、断熱性能があって、
しかも植えておけばまたいくらでも生えてくる、
『超合理的』な素材だから使ってるんです」って答えてた。
 
 
でもね、あるとき気がついたんだよね。
「それを合理的って判断しているオレの志向、それが嗜好だったんだ」
と。
 
 
好きじゃない、って言張ってた一番の理由は、
『木が好きな建築屋』っていうジャンルに
括られるのが嫌いだったの。すっごく。
 
あ、渋谷先生わかってくれる?
ありがとう。
 
そうね、
木が好きなひとって原理主義な感じがあってね、
仕口だの、伝統だの、まず正道があって、あれが一番で
そこから外れるものは邪道で、という小ウルサイ世界。
 
自分があの湿気った煎餅みたいなところへ括られて、
一緒に濡れ煎餅になっていくのが絶対に嫌だったの。
 
それで「木が好きなわけじゃない」って言張ってただけだったんですね。
いま思えば。
 
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若いころ私はアコーステックギターの製作家を目指していた、
って言ったけど、
 
あの生楽器は、木のボディー・部屋の中で
音が反射・響き合いながらグルッと廻って穴から出てきたのが『音色』なんです。
 
 
部屋の形が変わったら、どうなると思う?
そう、響き合い方もきっと違うものになるよね。
 
あの形を成り立たせてる構造のためにある骨・ブレイシング、
木の種類、厚み、色んな要素が影響し合いながら、音色になってる。
 
一本一本に個性的な響き合いができている。
 
 
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これ、建築と全く同じなんだよね、
私にとっては。
 
いまこの部屋は四角い普通の部屋だけど、
もしその壁が1枚ナナメになってたら、
空間の気配の反射がいきなり変わるでしょ。
 
そういう空間の響き合いには、
絶妙な「ココしかない」っていう配置・向き・組み合わせがあるんです。
それはもう『絶対的』な位置がね。
 
私にはそれがハッキリと見えるの。
図面という紙の上でも。
 
 
だから私の設計には、ナナメの壁がよくでてくるし、
小さな一軒の箱の中にある、空間がすごく躍動的で楽しいと言われるし、
それでいて落着くとも言われる。
 
響き合いの空間を作るのには、やっぱり木が最上なんです。
コンクリートや鉄じゃ硬すぎるし、
 
まして石膏ボードのハリボテじゃどうにもならない。
石膏ボードの壁を叩いてごらん、ボコボコ鈍い音でしょ。
あれじゃ気配も『反射』しないんだよね。
 
本物の木の扉をノックしたら、
コン!とかゴン!とか、ちゃんと響くでしょ、
やっぱアレでなくちゃ。
 
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楽器の場合、弾き手には、
自分の求める響きが無意識の領域にあって、
それを満たしてくれる一本のギターをずっと探している。

それとようやく巡り会ったとき、
人と道具とが一体になって、
最高の響きが生まれる。

私が今やってることも同じで、
その人、その家族が最も活き活きできるための響き合いを
無意識の領域から見つけて、形にしてこの世に出現させる。
 
そういう、人生の相棒となる道具をつくりたいんだよね。
 
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はじめに言った木、鉄、樹脂、ガラスのパーセンテージって、
アコースティクギターとほとんど同じなのね。

木はボディ、ネック、ヘッドの素材、
鉄は糸巻きペグ、ネックに埋込んだ鉄芯、弦、フレット、
樹脂はエンドピン、
ガラスは貝細工のインレイ。

 
私が十代の頃、はじめに描いていたギターの製作家、
それにはなれなかったけど、やっぱり点は繋がってたんですねぇ、
今私は、木で響き合いをつくってる。
 
そして、繋がると明らかに見えるのが、
「やっぱり木が好き」だったってことでした。
だから今は、木が好きだって素直に言えます。
 
 
ついでに言うと、
私の設計した建築は、すっごく音がいいの。
 
どんな安いスピーカーで鳴らしても、
音が天からキラキラ降ってくるようだし、
 
どんな小さい音で鳴らしても、
建物全体へ音がめぐっていくし。
 
硬すぎず、甘すぎず、心地よい。
 
音響設計なんてぜーんぜん学んだことないし、
考えたこともないけど、
建築がちゃーんと鳴らしてくれるんだよね。
 
気配の反射がちゃんと響き合うようにしてあげると、
音もちゃんといい具合に響き合うんだよね。
 
 
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…あ、そうだった
「"好き"ってなに?」って話しをしようと思ってたのに、
あなたが「好き」を見つけるヒントになる話しをしようと思ってたのに、
 
ゴメン、私の『好き』を延々喋ってしまった。
ここまで来た話のついでに、もうひとつ言うと、
 
私は「建築が好きなわけじゃない、たまたま性にあってたから続けてるだけで、
もっとピンと来るものがあれば、いつでも未練なくやめられる」
ってずっと言ってきましたけど、

まぁ聞いてもらってわかる通り、
…建築作るの、好きですね。

人が作ったのを見るのとか、評論するのはそれほど好きじゃないけど、
木と空間、響き合いをつくること、つまり
『設計するのは、最高に好き』なんだね。
 
いまココに白状します。
 
 
 
(話しはもう一回、「"好き"ってなに?」へ。
こんどこそ『好き』を解き明かします…)
 

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(長野県 / 建築家)
須永豪・サバイバルデザイン 

響きあう木の空間

森や山と人、地球が健全に回っていく様子を見届けたい。 木を街に届け人の営みに森をもたらし木が、森が、地球が、生命が、人が、そして星々や宇宙までもが響あいはじめるそんな木の建築空間宇宙の意図が起動する響きあう木の空間をつくろう

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