(続き)・・続いて女性の間で増加傾向にある「更年期障害」の場合をみてみましょう。更年期障害とは、40台半ばから60歳前後の女性に於いて、女性ホルモンの分泌が急速に減少することによって引き起こされるホルモン欠落症状です。症状にはかなりの個人差がありますが、のぼせや多汗、手足の冷え、息切れ、動悸、不眠、倦怠感、イライラや憂うつ感などメンタル不調、頭痛、めまい、肩凝り、腰痛など実に様々な症状に悩まされます。閉経をはさむ数年から十数年間、たいへん辛い症状が多くの女性を悩ませています。
このような更年期障害に対して、西洋医学では先ず個々の症状に対する対策を考えます。不眠に対しては睡眠導入剤、イライラや憂うつ感に対しては精神安定剤や抗うつ剤、頭痛や腰痛に対しては鎮痛剤などを処方する他、自律神経調整剤や血管拡張剤などを処方することがあります。また多くの方は胃腸の具合が悪いなどの理由で胃薬や整腸剤、下剤なども加わり、薬の種類はかなりの数に及びます。さらに症状は時とともに変化していくことが多いため、症状が一つ増えるたびに薬も一つ増える傾向があります。
もう一つ西洋医学的な特色のある治療法として「ホルモン補充療法」があります。これは減少した女性ホルモンを薬剤などとして補充する方法で、上記のホルモン欠落症状のかなりの部分が改善するほどの効果が期待できます。減少したホルモンを補充するという、ある意味で理にかなった治療法といえ、多くの女性がこれによって救われているのは事実です。但し女性ホルモンを多量に投与することにより、乳ガンや子宮ガンの発症率が上昇するという研究報告もあり、注意して治療にあたる必要があります。
これに対して漢方医学では、本人の症状と並んで体質をも重視した対応をします。例えば体温が低く抵抗力が弱い「虚証」の人で、腹部や手足の冷え、貧血症状、倦怠感が目立つような場合には「当帰芍薬散」が処方されます。体力が中等度の「中間証」で、肩凝り、腰痛、イライラ感、便秘傾向のある人の場合には「加味逍遥散」が向いています。一方、体温が高く体力のある「実証」の人で、のぼせや多汗、月経過多の強い場合には「桂枝茯苓丸」がよく選ばれます。
これとは別に、虚証で手足の冷えやほてり、口の渇きが目立つ場合には「温経湯」、実証でのぼせとめまいに悩まされる場合には「女神散」、同じく実証で高血圧気味の場合には「三黄瀉心湯」などが処方されます。実際の診療現場では、これら漢方薬と前述の西洋薬、また場合によりホルモン補充療法などが併用されるケースが少なくありません。ただ漢方薬を用いると大なり小なり症状が緩和されるため、作用が強くて副作用の心配がある西洋薬やホルモン薬を服用する必要性が減るのもまた事実です・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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