小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ長時間労働に通じると感じたアスリートの語る成功体験の話
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少し前になりますが、陸上競技で活躍していた為末大さんのブログで目に留まったことです。
「根性論が通用しない時代の到来」というコラムですが、その内容によれば、「日本のスポーツ文化は社会を反映しているようなところがあり、トレーニングにおける日本的根性論は、それぞれの問題に対して量の拡大で対応しようとすること」とありました。
「競技の特性によっては量が有効な場合もあるが、多くのスポーツでそうとは限らないし、量が大事だという思い込みが強い文化では、質で成長できるのに量に耐性がないが選手を潰すことになる」とありました。
私が一番印象的だったのは、「なぜ日本のスポーツ界が量を好むのかというと、日本人の性質に行きつくのかもしれないが、最近で感じるのは、量で問題解決した成功体験が多すぎるのではないか」ということです。
1日何時間バットを振った、誰にも負けない練習(量)をこなした、だから成長した、勝つことができたというような話です。
為末さんによれば、「かつてはトレーニング理論の進歩が遅く、多少間違っていても努力量さえ投下すれば勝てるということがあったが、今は情報やデータを集めて、どこに努力を投下するかを考えなければならなくなってきた」とのことです。年356日、一日24時間しかないことを考えると、量の拡大には結局いつか限界がくるということでした。
この話で思ったのは、日本の企業において、特に長時間労働の問題と、かなり共通点があるのではないかということです。
特に「量で解決した成功体験」ということでは、例えば「毎日夜遅くまで頑張った」「休日返上で働いた」「徹夜勤務」という働いた量や時間を苦労話として言い、「おかげで完成した」「納期に間に合った」「目標達成した」など、とにかく量をこなしたことで仕事がうまくいったというエピソードを聞くことがよくあります。
その一方で、例えば「1週間かかる予定を3日間で終わらせた」「効率を工夫して時間的な余裕を作った」などと言う話は、きっとどこかにあるはずですが、積極的に語られる機会が少ないように感じます。
このあたりも、為末さんは「根性論は、犠牲を払わずに勝ってしまうことを嫌がる傾向があり、疲労感やトレーニング量で満足を測っていて、パフォーマンスが上がったかどうかではない」「クタクタにならないと罪悪感さえ抱いてしまう」と言っていました。
うまくいっていたとしても、量をこなしていないことを積極的には語りづらいのでしょう。
こんなことを見ていると、長時間労働は日本人の本質に染みついた価値観である感じがします。
これを解消できた企業の例を聞くと、電気を消す、システムを停止する、オフィスから追い出すなど、結構物理的に強引な方法が多いですが、逆にいえば、そうでもしなければ変わらないということかもしれません。
「量で解決した成功体験」を上回る「質で解決した成功体験」が増えていかなければ、長時間労働の解決には、まだまだ時間がかかりそうに思います。
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