少し前に書かれたものですが、サッカーのジュニア育成で、トップレベルの経験を持つスペイン人コーチと、スペインでの指導経験が豊富な日本人コーチが、日本の現場で感じたスペインとの違いについて語った記事がありました。
指摘の多くは、やはり長時間の非効率な練習に関するもので、例えば、育成年代のトレーニングは週に3回で十分なのに、日本の高校年代では毎日3時間以上しているチームもあると言っています。
また、欧州では15歳くらいまでの子供たちに体力メニューを課すことはなく、ただ長距離を走らせるようなことはしないが、日本では平気で走らせていて、その結果、膝などを壊して辞めてしまう選手が多いと言っています。
挙げられていたエピソードで、この日本人コーチは、スペインでバルセロナ15歳以下の監督が、日本の高校生にサッカークリニックをした時に通訳として関わったそうですが、選手は集合時間の30分前からグラウンドの外を走っていたそうです。
監督はクリニックに参加しない選手が走っていると思っていたそうですが、集合時間になってその選手たちが集まって来たので驚いたそうです。
監督は「だったらもう練習の必要はないだろう」と言い、「日本人はピアノ演奏のウォームアップにバイオリンを弾くのか? 普通ピアノを弾くだろう。サッカーも同じだ。ボールを使わずに走っても意味がない」と言っていて、この言葉がとても印象に残っているとのことでした。実戦には役に立たない、まさに「練習のための練習だ」という指摘です。
ある会社でこんな話を聞いたことがあります。
新任社長の方針で、営業職でも決算書くらいは読めて当然、読めなければならないと、全員に簿記3級の取得を義務付けたそうです。仕事の上では、取引先の与信管理などで決算書を見るときがあり、それをきちんとできる人材が少なすぎるという指摘とのことです。
通信講座による自主学習で、自宅での勉強時間も申告すれば業務として認められるそうですが、企業の人材育成として考えると、まず簿記の知識が、営業職の実務上で本当にそこまで必要なのかという疑問があります。
知っていた方が良いのは確かでしょうが、仕事で扱う頻度や内容によっては、中途半端な知識で対応するよりは、専門知識を持った人が担当する方が、間違いも少なく効率的です。全員が資格を取るほど学ぶ必要があるのかと思います。
資格を自主学習でとらせるという方法も気になります。勉強内容が実務に沿うものなのか、方法は効率的で適切なのか、そこまで多くの時間とコストをかける妥当性があるのかが疑問です。
学習の必要性と、掛ける労力やコストとのバランスを欠いているように思われ、実務との関連が薄いとなれば、やはり「練習のための練習」となってしまいます。
人材開発において、学習の70%は「実際の仕事(経験)」、20%は、「他者との社会的なかかわり(人を介した学び)」、10%は、「公的な学習機会(研修)」によって起こるという「70-20-10の法則」と言われるものがあります。
やはり実務、実践の中で学ぶことが重要であり、研修はそれらとの重なりや結びつきの大きいことが必要です。
日本のスポーツ界で、短距離選手がマラソンをしているような練習が未だにあるようですが、これは企業でも似たようなことがあります。とにかく休まず、時間の使い方が非効率といったところです。
このような「練習のための練習」は、排除していかなければなりません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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