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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
第19回 補正要件 第3回 (1)
河野特許事務所 2013年1月10日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2012年11月号掲載)
1.概要
中国においては日本の訂正審判(日本国特許法第126条)に対応する制度が存在しない。ただし、日本の訂正請求(日本国特許法第134条の2)と同じく、特許付与後に無効宣告請求が提出された場合は、中国においても請求項についての補正が認められる。
しかしながら、中国において特許後に行うことができる補正は著しく制限されており、請求項の削除、併合、または、技術方案の削除の3つに限られている。実務上は請求項の削除を行うことが一般的である。
以下に述べる調合製剤事件では、特許権者が請求項の削除、併合、または、技術方案の削除以外の形式により請求項の補正を試みた。復審委員会[1]及び北京市第一中級人民法院[2]は当該補正を認めなかったが、北京市高級人民法院[3]及び最高人民法院[4]はこの3つに限るのは不当であるとして特許権者の補正を認める判決をなした。
2.背景
(1)特許の内容
上海家化医薬科技有限公司(原告)は発明特許第03150996.7(以下、996特許という)を所有している。996特許は高血圧患者に用いる調合製剤に関し、2003年9月19日に中国知識産権局に出願され、2006年8月23日に権利化された。争点となった公告時の請求項は以下のとおりである。なお、下線は筆者において付した
1.調合製剤であって、該製剤は重量比組成が1:10~30のアムロジピンベシル酸塩或いはアムロジピンベシル酸塩の生理上受け入れることが可能な塩と、イルベサルタンとの活性成分組成の薬物組成物。
2.請求項1に記載の調合製剤であって、前記薬物の組成物は各種医学上受け入れることが可能な内服製剤。
3.請求項1に記載の調合製剤は軽、中度の高血圧を治療する薬物を調合する中での応用である。
4.請求項3に記載の応用であり、前記薬物は、心血管重構の高血圧患者、腎性高血圧、腎臓機能障害或いは糖尿病腎臓機能障害に伴う高血圧患者の治療に用いる。
(2)無効審判の請求
2009年6月19日、李平氏は996特許に対する無効宣告請求を特許復審委員会に提出した。李平氏は明細書のサポート要件違反(専利法第26条第4項)を無効理由として主張した。原告は2009年9月29日に行われた口頭審理において請求項1について補正書を提出した。補正の内容は以下のとおりである。
補正前:「1:10~30」
補正後:「1:30」
すなわち、調合比の範囲1~30を最大値30に限定したのである。これに対し復審委員会は、当該請求項の補正書は原請求項及び明細書の記載範囲を超え、かつ、無効宣告過程において許可される補正方式に属さないことから、当該補正を認めなかった。
さらに、復審委員会は調合比が「1:10~30」であるところ、調合比1:10についての血圧降下作用についての明細書に何ら記載がないことから、サポート要件違反であるとして特許を全部無効とする審決をなした。
(3)訴訟の経緯
原告は復審委員会の審決に対し北京市第一中級人民法院に審決取り消し訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院は第14275号決定を維持する判決をなした。原告はこれを不服として,北京市高級人民法院へ上訴した。
北京市高級人民法院は,原告が無効宣告過程において特許に対してなした補正は関連する規定に適合すると認定し,第14275号審決を取り消す判決をなし、復審委員会に新たに決定をなすよう命じた。特許復審委員会はこれを不服として、最高人民法院に再審を請求した。
[1] 特許復審委員会2009年12月14日審決 第14275号無効宣告請求審査決定
[2]北京市第一中級人民法院2010年判決 (2010)一中知行初字第1364号
[3]北京市高級人民法院2010年12月20日判決 (2010)高行终字第1022号
[4]最高人民法院2011年10月8日裁定 (2011)知行字第17号
(第2回へ続く)
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