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対象:特許・商標・著作権
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インド特許法の基礎(第15回)(1)
~特許の譲渡及び実施許諾~
2014年8月19日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 安田 恵
1.はじめに
特許出願が特許付与可能な状態にあると判断され、拒絶されなかった場合、特許出願人に対して特許証が付与され,かつ,特許付与日が登録簿[1]に記録される(第43条)。出願人は特許の被付与者(grantees)として、その名称及び住所が登録簿に登録される(第67条(1)(a))。特許権の被付与者として現に登録簿に登録されている者は「特許権者」と呼ばれる(第2条(1)(p))。
特許権は排他的権利であり、特許権者はその承諾を得ない第三者がインドにおいて特許物品[2]を製造販売し、特許方法を使用する行為を防止することができる(第48条)。
特許権は移転可能な権利であり、特許権者は特許を譲渡し、実施許諾を行い、その他の方法でこれを処分する権限を有する(第70条)。また法の適用その他の原因によって特許は移転する。特許権の譲渡及び実施許諾は当事者の契約によって自由に行うことができるが、所定の要件を満たさなければその効力を生じず(第68条)、特許庁[3]に登録の申請(第69条)を行う必要がある点に留意する必要がある。
2.譲渡等の移転
(1)譲渡
譲渡(assignment)の用語は法定されていないが、次の3種類の譲渡があると考えられている[4]。
①法律上の譲渡(Legal assignment)
②衡平法上の譲渡(Equitable assignment[5])
③譲渡抵当(Mortgages)
(a)法律上の譲渡
法律上の譲渡は、現存する特許権の証書に基づく譲渡である。譲渡等に関する後述のインド特許法第68条の要件を満たした適法な譲渡は、特許庁の登録簿に登録され、特許の譲受人は特許の所有者又は共有者として登録簿に登録される(第69条)。
(b)衡平法上の譲渡
衡平法上の譲渡は、例えばインド特許法第68条等の法律上の要件を満たしていないが、特許を譲渡する旨の合意が示された文書に基づく譲渡である。当事者間で特許を譲渡する旨の合意が明白であっても、法律上の要件を満たしていない譲渡は、法律上の譲渡としては認められないが、衡平法上の譲渡に係る権利が認められ得る。
(c)譲渡抵当
譲渡抵当は、債務の担保として特許権者が債権者へ特許権を移転し、債務の弁済があれば特許権を特許権者へ返還させる契約に基づく譲渡である。特許権者(債務者)は譲渡抵当権設定者であり、債権者は譲渡抵当権者である。適法な譲渡抵当は特許庁の登録簿に登録され、債権者は譲渡抵当権者として登録簿に登録される(第69条)。
(2)その他の特許権の移転の原因
(a)中央政府による特許の移転(第102条)
中央政府は,特許発明を特許権者から公共目的のために取得することが必要であると認めるときは,官報にその旨を告示することができ,それにより,特許権を中央政府へ移転することができる(第102条(1))。
(b)特許権者の死亡又は倒産等による承継[6]
特許権者が人である場合、特許権者の死亡により特許権は、死亡した者の財産権を法律上代表する者に移転する。特許権者が会社である場合、当該会社の倒産等によって、特許権は特定の者へ承継される。
3.実施許諾
(1)当事者間の契約に基づく実施許諾
当事者間の実施許諾には大きく次の3種類の実施許諾がある。
①独占的実施許諾(exclusive license)※特許権者の権利を留保しない。
②準独占的実施許諾
③非独占的実施許諾(non- exclusive license[7])
いずれの実施許諾においても、特許発明の実施地域、許諾期間、発明の内容、実施内容(製造、販売等)を一定範囲に限定して、特許発明の実施を許諾し得る。また、我が国と異なり、実施許諾の登録は単なる対抗要件では無い。独占的通常実施権か否かにかかわらず、実施許諾の登録申請を行う必要がある(第69条)。
(a) 独占的実施許諾
独占的実施許諾とは「特許権者が実施権者に対して又は実施権者及びその者から授権された者に対して,他の全ての者(特許権者を含む。)を除外して,特許発明に関する権利を付与する実施許諾」をいう(第2条(1)(f))。つまりインド特許法における独占的実施許諾は特許権者の権利を留保せず、特定の者のみに特許発明の実施を許諾するものである。独占的実施権者は特許侵害に対して、特許権者と同様の権利を有し(第109条)、差止命令及び損害賠償又は不当利得返還による救済を求めることができる(第108条)。権利者自身が差止を求めることができる等、我が国の専用実施権に似た側面を有する。しかしインド特許法における独占的実施権はあくまで実施権であり、物権的な財産権のように当然には権利の移転、独占的実施権に基づく再実施許諾が可能になるものでは無い。我が国の専用実施権及び独占的通常実施権のいずれとも異なる性質を有している。
(b) 準独占的実施許諾
準独占的実施許諾は、特許権者が特許発明を実施する権利を留保した上で、特定の者のみに特許発明の実施を許諾するような実施許諾である。準独占的実施権の用語はインド特許法に法定されていないが、第70条で許諾され得る実施許諾から、特定の許諾形態を除外したり、特定の許諾形態に限定したりする条項は存在しない。むしろ第70条は特許権を処分する広範な権原を特許権者に認めており、第68条で有効と認められ、第69条で登録が認められる権利の範囲も広範である。インド特許法の実施許諾(License)から準独占的実施許諾が除外される積極的な理由は無いと思われる。準独占的実施許諾は当事者間の契約により認められ得る許諾形態と考えられる。実務的にも準独占的実施許諾は認められている。
(c) 非独占的実施許諾(non- exclusive license)
非独占的実施許諾は、我が国の通常実施権の許諾に相当するものであり、特定の者に限定すること無く、複数の第三者に特許発明の実施を許諾し得る実施許諾である。
(2)強制的実施権[8](第82条~第94条)
強制実施権は、所定の条件を満たす場合、特許権者の合意無く、政府が第三者に対して強制的に付与する実施権である。特許発明が適切に実施されていない場合(第84条)、利用関係にある特許発明の効率的な実施が阻害されている場合(第91条)、国家的緊急事態等が発生した場合(第92条)、製造能力が不十分である国向けの特許医薬品を製造し、当該国へ輸出する場合(第92条A)等、所定の要件が満たされた場合、第三者に強制的実施権が設定される。
(3)黙示の実施許諾[9]
黙示の実施許諾は、明示された条項によって許諾が与えられたものでは無いが、当事者を取り巻く状況から黙示的に特許発明の実施を許諾したものと解釈されるものである。例えば、特許権者が特許製品を販売した場合、その特許製品の購入者に対しては特許方法の実施を黙示的に許諾したものと考えられる。
⇒第2回へ続く
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[1] 「登録簿」とは,第67 条にいう特許登録簿をいう(第2条(1)(x))。
[2] 「特許物品」及び「特許方法」とは、それぞれ現に有効な特許の対象である物品又は方法をいう(第2条(1)(o))。
[3] 「特許庁」とは,第74 条にいう特許庁をいう(第2条(1)(r))。
[4] Tamali Sen Gupta (2011). Intellectual Property Law In India: p.61
[5] エクイティ上の譲渡 元来は、chose in action (債権)の譲渡のようにコモン・ロー上は無効であるが、エクイティによって強制力を付与される譲渡を意味した. イギリスのLaw of Property Act 1925(財産権法)やアメリカのUniform Commercial Code (統一商事法典)等により、多くのものがlegal assignment, つまりエクイティの助けがなくても効力の発生する譲渡として認められるようになった。しかし,これらの制定法の適用は受けないが、エクイティ上は強制力が付されるものが残っており、それらはなおこの名称でよばれている.(田中英夫 (1991). 英米法辞典)
[6] P. Narayanan (2006). Patent Law Fourth Edition: p. 270, 12-12
[7] “non-exclusive license”の用語は第90条(1)(ⅳ)に現れるが、その用語の意味は定義されていない。
[8] “License of Right”(実施許諾用意制度)は2002年特許法改正により削除され、Trips協定31条に則した強制実施権に関する条項が設けられた。
[9] P. Narayanan (2006). Patent Law Fourth Edition: pp. 271, 12-18
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