中国特許判例紹介:中国における実用新型特許の創造性判断(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における実用新型特許の創造性判断(第2回)

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中国特許判例紹介:中国における実用新型特許の創造性判断(第2回)

~商業的成功を根拠に創造性を肯定した事例~

河野特許事務所 2013年5月31日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

胡穎

                                  上訴人(原審原告)

v.

国家知識産権局特許復審委員会

                                  被上訴人(原審被告)

 

3.高級人民法院での争点

争点1:創造性の判断に商業的成功が考慮されるか?

 原告は、新たな証拠を提出し,本特許が既に商業上の成功を収めていることを証明した。具体的には、以下の3つの証拠を提出した。

 

証拠1:11人の医療専門家が提供した専門家証言。これらは、新技術が如何に人工流産手術の成功率を高めたかということ、手術併発病の発生を減少したこと,及び、如何に産婦人科医師が手探りの状況で手術をしなければならなかったのかという問題を解決したかについての証明となっている。

 

証拠2:湖北省計画出産サービスセンターの政府買い付け契約書、河南省人口及び計画出産委員会の買い付け契約書、黒龍江省の政府買い付け契約書。これらの契約書はBモード超音波画像診断モニターの購買数量を示している。

 

証拠3:中華医学会電子音像出版社が提供した証明及び出版証書。これらは、当該出版社が本技術に関するDVDを出版したこと,及びそれが全国に発行されたということを証明している。

 

 創造性に関し、上述した商業的成功に関する証拠がどの程度考慮されるかが争点となった。

 

 

4.高級人民法院の判断

争点: 実用新型の技術効果が直接的に当該実用新型を商業上の成功に導くのであれば、創造性を具備する。

 高級人民法院は、創造性判断の過程においては,当該実用新型の技術効果を考慮すべきであり、全体から技術方案について考慮しなければならず、機械的に技術特徴について分割して判断してはならないと述べた。そして、当該実用新型の効果が直接的に当該用新型を商上の成功に導くのであれば、用新型は造性を具備すると判示した。

 

 高級人民法院は、現有技術1及び2は人工流産手術及び避妊器の設置、取り出しの手術に用いるものではなく、その上Bモード超音波器プローブを拡張器具にスナップフィットし、女性計画出産手術を行うという動機付けが、これらの文献には存在しないと判断した。

 

 また、高級人民法院は、実用新型特許の創造性に関し、次のように述べている。

 

「実用新型は往往にして現有技術の技術方案に対し、形状、構造上簡単な改善を行うものであり,その造性の要求は発明特許よりも低い。」

 

 本特許はBタイプ超音波器プローブをスペキュラムにスナップフィット方式により連接し、操作が簡単であり、正確に直視観察でき、スペースを節約できる。また計画出産手術の効率を大いに高め,医師が状況をよく見えない状態下で、経験に頼った操作により失敗に至るという危険性を低減することができ、顕著な効果を奏する。かつ,本特許申請日前の現有技術は共にこの問題を解決しておらず,本特許は現有技術に存在する欠点及び不足を克服し、長きにわたり女性の計画出産手術中の人工流産手術、避妊器の設置、取り出しが直視できない状態で行われ、容易に予期せぬ問題が発生していたという課題を解決したのである。

 

 高級人民法院は、証拠1~3に関し、これらは、本特許技術方案に基づき生産したBモード監視産婦人科手術器が既に全国において広く普及しており、また政府の購入を通じて一定の市場シェアを占めているということを証明していると判断した。そして、上述した証拠は本特許が既に上の成功を取得していたことを証明することができ,かつ、この種の成功は当該実用新型の技術特徴により直接導き出すことができるものであると判断した。

 

 以上の理由により、高級人民法院は請求項1に係る発明の創造性を認めた。

 

 

5.結論

 高級人民法院は、原告の上訴主張を支持し、創造性欠如により特許無効と判断した原審判決及び審決を取り消す判決をなした。

 

 

6.コメント

 創造性の判断においては上述した3ステップ判断を基礎とするが、以下の二次的要素も考慮される。

 

(1)人々が長らく解決を望んでいたが、始終成功が得られなかった技術的課題を解決した場合

(2)技術偏見を克服した場合

(3)商業的成功があった場合

 

 発明製品が商業的成功を遂げた場合、当該成功が発明の技術的特徴により直接にもたらされるものであれば、発明に有益な効果を有することを反映しているとともに、発明が非自明的であることを表している。従って、当該発明は突出した実質的特徴と顕著な進歩を有し、創造性を具備すると判断される。ただし、商業的成功は販売技術の改善、広告宣伝等、発明の技術的特徴以外の要素を起因とする場合、創造性の判断の根拠とされない。

 

 本事件では、医療専門家の証言、販売数量に関する契約書、技術内容を示すDVDが証拠として提出され、商業的成功が考慮された上で創造性が肯定された。

 商業的な成功は、特許技術以外の要素、例えば広告宣伝、価格戦略等様々な要素に起因するものである。ビジネスを行う以上、広告宣伝等は必須であるため、厳密に言えば商業的成功が100%特許技術を起因とするケースは皆無であろう。

 

 本事件のように、技術的な側面が現れ、また特許による技術的効果に関連する証拠を提出すれば創造性が肯定される場合がある。実務上、2つの文献による単なる組合せ、或いは、文献には開示されていないが周知慣用技術を適宜用いたにすぎないとして、創造性が否定されるケースが多い。復審及び行政訴訟にて創造性の有無を争う場合は、商業的成功を主張するのも一つの手である。

 

 また注意すべきは商業的成功の判断基準日は出願日に限らないということである。事実本件において提出された証拠も出願日後のものである。この点が技術的効果、技術的偏見等、出願日を基準に判断する他の創造性判断要素と相違する。商業的成功は往々にして数年後に発生するものである。創造性の要件を打破できる程度に商業的成功を主張し得る証拠が集まった段階で、復審または行政訴訟にて提出する戦略が必要とされる。

 

以上

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