早わかり中国特許:第19回 補正要件 第3回 (3) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第19回 補正要件 第3回 (3)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第19回 補正要件 第3回  (3)

河野特許事務所 2013年1月17日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年11月号掲載)

 

6.考察

(1)特許後の補正の原則

 特許後の補正に関し、現行の審査指南は以下のとおり規定している。なお、下線部は筆者において付した。

 

審査指南第4部分第3章4.6.1

4.6 無効宣告手続における専利書類の補正

4.6.1 補正の原則

 発明または実用新型の特許書類の補正は請求項に限る。

その原則とは、

(1)原請求項の主題の名称を変更してはならない。

(2)権利付与時の請求項と比して、原特許の保護範囲を拡大してはならない。

(3)原明細書及び請求項に記載された範囲を超えてはならない。

(4)一般的には、権利付与時の請求項に含まれていない技術的特徴を追加してはならない。

 外観設計特許の権利者はその特許書類を補正してはならない。

 

4.6.2 補正の方式

 前記の補正原則の下で、請求項に対する補正の具体的な方式は一般的に、請求項の削除、併合または技術方案の削除に限る。

 請求項の削除とは請求項から、一または複数の請求項を取り除くことを言う。例えば、独立請求項或いは従属請求項。

 請求項の併合とは、相互に従属的な関係を持たないが、授権公告書類においては同一の独立請求項に従属する2つ或いはそれ以上の請求項の併合を言う。この場合、併合対象従属請求項の技術的特徴の組み合わせにより新規の請求項を成す。当該新規請求項は、併合された従属請求項の全ての技術的特徴を含めなければならない。独立請求項は補正がなされていない限り、その従属請求項に対する併合方式の補正が許されない。

 技術方案の削除とは、同一の請求項において並列している2種以上の技術方案から1種或いは1種以上の技術方案を削除することを言う。

 

 上述のとおり審査指南は規定しているが、実務上補正形式は請求項の削除、併合または技術方案の削除の3つに厳しく制限されている。請求項の併合及び技術方案の削除については理解しがたいので、以下に補足説明する。

(i)請求項の併合

 請求項1が、以下のとおり構成要件AとBとCとを含む装置であるとする。請求項2は、請求項1に構成要件Dを外的付加したものであり、請求項3は請求項1に構成要件Eを外的付加したものである。

 

請求項1:A,B,C 

請求項2:請求項1+D

請求項3:請求項1+E

 

 ここで、請求項2及び請求項3は、相互に従属的な関係を持たないが、同一の独立請求項に従属していることが必要である。このような場合に、独立請求項1を削除すると共に、従属請求項2及び3を組み合わせる補正を併合という。補正後の請求項は以下のとおり、構成要件A~Eを含む装置となる。

 

併合→クレームA,B,C,D,E

 

(ii)技術方案の削除

 技術方案の削除は例えば、マーカッシュ形式で記載された請求項の構成の一部を削除することをいう。マーカッシュ形式とは、A,B及びCからなる群より選ばれた1種以上の化合物等と記載する請求項の記載形式であり化学分野で主に利用される。ここで、化合物Aを削除する補正が、技術方案の削除となる。中国においては、特許後は原則としてこれら3つの方式しか補正が認められない。

 

(2)他の形式の補正と今後の実務対応

 最高人民法院の今回の判決により、他の形式についても補正が認められる可能性が広がったといえる。特に審査指南は「一般に」3つに限ると規定しており、他の方式を絶対的に排除していない。さらに一歩進んで分析すれば、請求項の減縮についても「一般には」認められないと規定しており、例外的に許容する規定ぶりとなっている。

 特許後の補正は、特許無効宣告に対する特許権者の重要な対抗手段である。日本の特許訴訟実務においても、先行技術及び記載不備の問題を解消しつつ、同時にイ号製品をカバーするよう訂正請求が行われる。

 本最高人民法院裁定がなされる前は、事実上請求項の削除しかできず、特許権者側は無効宣告請求がなされた場合、非常に不利な立場におかれていた。調合製剤事件の如く減縮補正しない限り記載不備が解消しない場合、または、先行技術との相違点が明確化できず特許無効の蓋然性が高い場合、思い切って請求項の減縮補正を行うことも訴訟戦略の一つとして今後は検討すべきである。

 減縮補正のタイミングは、調合製剤事件と同じく少なくとも口頭審理前か、或いは、請求項の併合が認められる答弁書提出前が好ましいと考える。口頭審理後では時期に遅れた補正であるとして認められない可能性が高いからである。なお、請求項の削除及び技術手段の削除は無効宣告請求審査決定までに提出すれば良い。

 

 

 

                                                                            以上

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