M&Aの手続ー本契約の締結、履行 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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対象:事業再生と承継・M&A

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M&Aの手続ー本契約の締結、履行

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6 本契約の締結

 デューディリジェンスを参考にしての、最終的な判断の結果、M&Aを実行することになった場合は、本契約を締結します。本契約の契約書には一般的には以下のような内容を盛り込みます。

 なお、M&Aの方法によっては、本契約の契約書の作成が法律上義務付けられている場合もあります。

(1)買収価格(および支払方法)

 上場企業であれば市場における株価を基準に買収価格を決定することができます。しかし、事業承継が問題となる中小企業の多くは、非上場会社である場合が多いです。そこで、実務上中小企業の価値算定方式としては、時価純資産価格方式による企業価値に営業権の価値を加算して評価する方法が広く使われています。純資産価格とは貸借対照表の資産総額から負債総額を控除した金額です。また、営業権は、同業他社の平均的な利益水準よりも高水準の利益を獲得する場合の平均を超える利益部分(超過収益力)のことをいいます。

 さらに、デューディリジェンスの結果を上記の方式で算定された金額に反映し量当事者間の交渉を経て最終的な価額となります。

 その他にもDCF(Discounted Cash Flow)方式、類似会社比準方式、類似業種比準方式等がありますが、一般的には上場会社向けの算定方式であり、中小企業の事業承継の場面では使いにくい方法です。

(2)買収の範囲

 合併の場合には関係ありませんが、事業譲渡の場合には、どの範囲で相手方企業が自社の資産・負債を承継するのかについて明確かつ具体的に定めておかなければなりません。

(3)偶発債務の取扱い

 偶発債務とは、将来発生する可能性のある債務または発生することが確実な債務で、その金額を特定できない債務をいいます。たとえば、相手方企業が訴訟を提起されていて、その判決がまだ出ていない場合には、敗訴するのか、敗訴したとしていくらの賠償義務を負うのか、について買収契約の時点では分かりません。そのような不確定事項について、予め買収の対象から外す等して、将来の不安を取り除きます。

(4)表明・保証(Representations and Warranties)条項

 M&Aを実行した後に、粉飾決算が判明する等、相手方企業にとって不利な事態が起きた場合に備えて、「表明・保証」に関する条項が設けられるのが一般です。この条項で定めた事項については、違反した側の企業や保証人に相手方企業に対する損害賠償義務が発生します。この条項については後日の紛争を避けるために、どの事項について保証するのか、保証期間はいつまでか、免責事項は何か等を明確に定めておくべきです。売り手企業の現経営者としては、買い手企業にとってリスクとなるべき点につき適宜表明・保証をすることによって、事業承継という目的を実現することができるでしょう。

(5)競業避止義務に関する条項

 競業避止義務とは、買収された企業が買収された後に同種の事業を行なうことを禁止することをいいます。これを行われると事業の承継を受けた会社が思わぬ損害を被ることもあるため、法律だけでなく、契約によっても規制しなければなりません。もっとも、M&Aによる事業承継をすることによって、現経営者がハッピーリタイアをする場合には、問題はないといえます。問題となりえるのは、事業承継によっても引退しない者がいる場合であり、これらの者が競業避止義務を課されることによって同業を営むことができなくなることになります。

(5)違約金条項

 欧米の基本合意書には違約金条項が入るケースがほとんどです。わが国のM&Aでは破談を前提にした違約金条項は心情的に入れたがらないのが通例ですが、今後M&A取引においては最悪を想定した違約金条項を合意書に盛り込むケースが増える傾向にあります。

(6)解除条件

 一定の事態が起きた場合は、M&Aを当然に中止する旨を定めます。

 一定の事態が発生して契約が解除される場合に、相手方が不足している条件を追完すれば取引を再開できる等の措置を講じるとよいでしょう。

(7)クロージングのスケジュール

 

7 本契約の履行(いわゆるクロージング)

 本契約を締結した後は、そこで定めたスケジュールに沿って契約の履行のための手続を行います。その他、会社法上、定款変更手続、変更登記手続が必要です。他にも、たとえば合併の場合には、合併に先立って公正取引委員会への届出が、独占禁止法上要求されています。また、円滑な事業承継を実現するため、売り手企業は、クロージング後も経営に関与したり従業員への説明をしたり等適宜フォローアップをする必要があります。この点は、本契約において誓約条項として盛り込むとよいでしょう。

 

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