事業承継対策としての従業員持株会 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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事業承継対策としての従業員持株会

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相続

第4章 従業員持株会

 

第2 事業承継対策としての従業員持株会

1 はじめに

 安定した企業経営のためには,後継者及びその他の友好株主に2/3以上の株式を集中させることが望ましいといえます。しかし,仮に2/3以上の株式を確保できたとしても,敵対する株主から,少数株主権や単独株主権(中でも,前述の株主代表訴訟)を濫用的に行使されるおそれがあります。

 そこで,現経営者が株式を全て買い集めることも考えられますが,その買取資金は多額になります。また,仮に買い集めたとしても,今度は相続の際に相続税が大きな障害となります。

 また,自社株を従業員個人に持たせた場合,従業員が退職する際に株式の買い取り価格が折り合わずに買い戻すことができなくなると,社外株主の発生を招くことになります。

 このような問題を解消する手段として,従業員持株会が威力を発揮します。

 以下,従業員持株会の事業承継対策としての側面を以下,具体的に説明します。

 

2 相続税の節税

非公開会社の株式は,流動性に乏しく売却することができないのが通常です。そこで,従業員持株会を設立したうえ,オーナー社長が保有する株式を譲渡して持株数を減らすことにより,事業承継の際の税負担を軽減することができます。オーナー社長が2/3以上の株式を保有できていれば,会社の支配権が揺らぐことはありません。

なぜ税負担が軽減されるかというと,従業員持株会は会社の支配に無関係な非同族関係者ですので,配当還元価額方式により低額で株式を譲渡することができるからです。

 例えば,オーナー社長が時価純資産方式により1株100万円と評価される株式を1000株持っていたとします。この場合,相続財産は10億円(1000株×100万円)となります。これに対して,従業員持株会をつくり,オーナー社長が保有する株式のうちの25%である250株を従業員持株会に配当還元価額方式(例えば,配当金が年1万円として,配当還元率が10%と仮定した場合)に従い1株10万円で譲渡したとします。この場合,相続財産は7億5000万+2500万円(250株譲渡分)の7億7500万円となり,相続税を大幅に軽減することができます。また,オーナー社長の譲渡所得については,株式の譲渡価額を発行金額とした場合には譲渡益がなく所得税も課税されません。

 

3 種類株式の活用

 従業員持株会に譲渡する株式数については,経営者が会社の支配権を維持できる限度(通常,2/3以上)にすべきですが,そもそも譲渡する株式を種類株式の無議決権株式とすることにより,従前と同様に会社に対する支配権を維持することができます。しかし,従業員にとってキャピタル・ゲインの取得も見込めず,議決権も認められない株式を保有するメリットがなくなり,従業員持株会が成立しなくなるおそれがあります。そこで,従業員持株会の株式は配当優先株とすべきでしょう。

 また,従業員持株会が取得した株式を譲渡できないように,定款に譲渡制限の定めをおいておくとよいでしょう。

 

4 株主管理に役立つこと

(1)株式の社外流出防止

 従業員持株会の規約において退職により自動的に従業員持株会を退会することや退会の場合には現金で買い戻すことを規定することによって,退職時に買い戻しを簡単にすることができます。従業員持株会でなく従業員個人が株式を取得する場合には,買戻条件が整わず,なかなか株式を買い戻すことができないことがありますが,従業員持株会に株式を保有させたうえ,上記のような規定を規約に設けておくことによって,この弊害を解消することができます。

(2)安定株主工作

 従業員持株会では,株式は理事長名義で登録を行い,議決権は理事長が一括して行使します。従業員持株会は,民法上の組合として設立されるのが一般的ですから,従業員持株会自身は株式を保有することができません(各組合員の共有となります。)。そこで,形式的に理事長に名義を借りることになるのです。この理事長で一括管理される信託を管理信託と呼びます。

 会社は,従業員株主が保有する株式を理事長名義で一括管理するため,株主総会の事務,株主への書類の送付事務,増資に関する事務といった事務手続を軽減することができます。

(3)株式の買取資金節約

 オーナー社長が他の株主から株式を買い取る場合,オーナー社長は※「同族株主」(財産評価基本通達188(1),法人税基本通達1-3-5)ですから,株価は高い評価となる「原則的評価方法」で評価されます。したがって,買い取る株式数によっては,オーナー社長が個人では株式を買い取れない場合があります。

 他方,従業員持株会が株式を買い取る場合には,従業員持株会は「同族株主」ではありませんから,「特例的評価方法」である配当還元価額で買い取ることができます。

※「同族株主」とは,課税時期における評価会社の株主のうち,株主の一人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の30%以上(株主の一人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が50%超である場合には,50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます。

 

 

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