- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
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対象:事業再生と承継・M&A
- 村田 英幸
- (弁護士)
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第7章 事業承継と株式に関する税金
第1 株式等の評価単位
1 取得財産の価額の評価
相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,原則として当該財産の取得の時における時価によります(相続税法22条)。そのうち株式及び株式に関する権利の価額は,それらの銘柄の異なるごとに,財産評価基本通達の定める次に掲げる区分に従い,その1株又は1個ごとに評価します(財産評価基本通達168)
(1)上場株式 |
金融商品取引所に上場されている株式 | |
(2)気配相場等のある株式
|
登録銘柄 |
日本証券業協会の内規によって登録銘柄として登録されている株式 |
|
店頭管理銘柄 |
日本証券業協会の内規によって店頭管理銘柄として指定されている株式 |
|
公開途上にある株式 |
金融商品取引所が内閣総理大臣に対して株式の上場の届出を行うことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式(登録銘柄を除きます) |
|
日本証券業協会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前日までのその株式(店頭管理銘柄を除きます) |
|
(3)取引相場のない株式 |
(1)及び(2)に掲げる株式以外の株式 | |
(4)株式の割当てを受ける権利 |
株式の割当基準日の翌日から株式の割当ての日までの間における株式の割当てを受ける権利 | |
(5)株主となる権利 |
株式の申込みに対して割当てがあった日の翌日(会社の設立に際し発起人が引受けをする株式にあっては,その引受けの日)から会社の設立登記の日の前日(会社成立後の株式の割当ての場合にあっては,払込期日(払込期間の定めがある場合には払込みの日))までの間における株式の引受けに係る権利 | |
(6)株式無償交付期待権 |
株式無償交付の基準日の翌日から株式無償交付の効力が発生する日までの間における株式の無償交付を受けることができる権利 | |
(7)配当期待権 |
配当金交付の基準日の翌日から配当金交付の効力が発生する日までの間における配当金を受けることができる権利 | |
(8)ストックオプション |
会社法2条21号に規定する新株予約権が無償で付与されたもの(その目的たる株式が上場株式又は気配相場等のある株式であり,かつ,課税時期が権利行使可能期間内にあるものに限ります) |
2 上場株式の評価
上場株式の評価は,次に掲げる区分に従い,それぞれ次に掲げるところによります(財産評価基本通達169)。
上場株式 |
その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格 | |
その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」といいます)のうち最も低い価額を超える場合 |
その最も低い価額 | |
負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式 |
その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格 |
3 気配相場等のある株式の評価
気配相場等のある株式の評価は,次に掲げる区分に従い,それぞれ次に掲げるところによります(財産評価基本通達174)。
(1)登録銘柄及び店頭管理銘柄
|
イ ロに該当しない登録銘柄及び店頭管理銘柄 |
日本証券業協会の公表する課税時期の取引価格(その取引価格が高値と安値の双方について公表されている場合には,その平均額) その取引価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の取引価格の各月ごとの平均額(以下「取引価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には,その最も低い価額 |
ロ 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した登録銘柄及び店頭管理銘柄 |
日本証券業協会の公表する課税時期の取引価格 | |
(2)公開途上にある株式 |
イ 株式の上場又は登録に際して,株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われる場合における公開途上にある株式 |
その株式の公開価格(金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格をいいます) |
ロ 株式の上場又は登録に際して,公募等が行われない場合における公開途上にある株式 |
課税時期以前の取引価格等を勘案して評価 |
4 取引相場のない株式の評価上の区分
取引相場のない株式の価額は,評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」といいます)が次の表の大会社,中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて,それぞれ次項の定めによって評価します。
業種 |
従業員数と総資産額 |
取引金額 |
区分 |
すべての業種 |
100人以上 |
|
大会社 |
卸売業 |
50人超かつ20億円以上 |
80億円以上 |
大会社 |
|
50人超かつ14億円以上 |
50億円以上80億円未満 |
中の大会社 |
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30人超かつ7億円以上 |
25億円以上50億円未満 |
中の中会社 |
|
5人超かつ7000万円以上 |
2億円以上25億円未満 |
中の小会社 |
|
5人以下または7000万円未満 |
2億円未満 |
小会社 |
小売業・サービス業 |
50人超かつ10億円以上 |
20億円以上 |
大会社 |
|
50人超かつ7億円以上 |
12億円以上20億円未満 |
中の大会社 |
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30人超かつ4億円以上 |
6億円以上12億円未満 |
中の中会社 |
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30人超かつ4000万円以上 |
6000万円以上6億円未満 |
中の小会社 |
|
5人以下または4000万円未満 |
6000万円未満 |
小会社 |
その他 |
50人超かつ10億円以上 |
20億円以上 |
大会社 |
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50人超かつ7億円以上 |
14億円以上20億円未満 |
中の大会社 |
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30人超かつ4億円以上 |
7億円以上14億円未満 |
中の中会社 |
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5人超かつ5000万円以上 |
8000万円以上7億円未満 |
中の小会社 |
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5人以下または5000万円未満 |
8000万円未満 |
小会社 |
第2 株式の評価方法の適用判定
1 判定方法
(1)同族株主かどうか
相続等により株式を取得する者が,その会社の同族株主かどうかを確認します。
同族株主がいる会社の同族株主は,原則として原則的評価方式が採用されます。もっとも,取得した議決権割合が5%未満で,株主のなかに中心的な株主がいても,株式取得者が中心的な同族株主や役員でない場合には,特例的評価方式が採用されます。
これらに対して,同族株主でない場合には,特例的評価方法として,配当還元方式が採用されます。
①同族株主とは(財産評価基本通達188(1))
同族株主とは,以下の2つのいずれかに該当する場合をいいます。なお,同族関係者については,第3章において詳述しています。
(ⅰ)株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令4条)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上である場合におけるその株主及びその同族関係者
(ⅱ)株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては,50%超の株式を有するグループに属する株主及びその同族関係者
②中心的な同族株主とは(財産評価基本通達188(2))
中心的な同族株主とは,以下に該当する場合をいいます。中心的な同族株主とは,同族株主のなかでも特に中核となる株主であるという位置づけです。
(ⅰ)課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者,直系血族,兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち,これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含みます)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主
(2)規模はどうか
次に当該会社の規模はどうでしょうか。従業員数等に応じて,大会社,中会社,小会社の3つの区分に分けられます。
(3)特定株式かどうか
最後に,当該会社の財産の多くが株式や土地である場合など「特定の特殊な会社」に該当するかどうかを確認します。この判定は,大会社,中会社,小会社の3つの
区分により,さらに,中会社については,中の大会社,中の中会社,中の小会社の3つに細分化されます。
2 評価方法の確定
上記の判定方法に従い,評価方法が確定されます。
会社の規模 |
評価方法 | |
大会社 |
類似業種比準価額 (純資産価額でも可) | |
中会社 |
大 |
類似業種比準価額×0.90+純資産価額×0.10 |
中 |
類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.25 | |
小 |
類似業種比準価額×0.60+純資産価額×0.40 | |
小会社 |
純資産価額 (類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50でも可) |
第3 相続で取引相場のない株式を取得した場合の特例
従来,相続で取引相場のない株式を取得した場合には,次の要件のもとで,相続税の課税価格を,発行済株式の総数の3分の2に達するまでの部分について10%減額するという特例の適用がありました。(租税特別措置法旧69条の5)。平成21年税制改正で自社株の納税猶予制度制度が創設されたことに伴い,廃止されました。
(ⅰ)相続開始時において,取引相場のない株式等であること
(ⅱ)相続開始の直前および相続開始の時において,被相続人および被相続人の親族並びに被相続人と特別の関係がある者が有していた各法人の株式の総数又は出資の総額が,当該各法人の発行済株式の総数または出資の総額の50%超であること
(ⅲ)会社の発行済株式の総額等が20億円未満であること
(ⅳ)その株式または出資を取得した人が被相続人の親族であり,相続税の申告書の提出期限まで引き続きその株式または出資を有し,かつ,その法人の役員等の地位を有していること
(ⅴ)その株式または出資を取得した人が相続開始の時において,その株式または出資に係る法人の発行済株式の総数の5%以上を有していること
第4 事業承継における株式の税金
1 株式譲渡
(1) 譲渡所得
株式の譲渡がなされた場合には,譲渡所得課税の対象となります(所得税法33条1項)。譲渡所得課税の算定は,譲渡収入金額から,当該所得の基因となった資産の取得費,取得に要した負債の利子,その資産の譲渡に要した費用等を控除したものが譲渡益となり,この譲渡益に対して20%が課されます(所得税法33条3項)
以上のほか,次の特例があります。
第1に,非上場株式を譲渡した者が,その株式を相続によって取得していた場合には,取得費に相続税相当額を加算する特例があります(租税特別措置法39条1項)。
第2に,著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限ります)により居住者の有する譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合(低額譲渡)には,その者の譲渡所得の金額の計算については,その譲渡があった時に,その時における価額に相当する金額により,これらの資産の譲渡があったものとみなされます(所得税法59条1項2号)。ここで政令で定める額とは,譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とされています(所得税法施行令169条)。
2 自己株式の取得の特例
(1)みなし配当
発行会社が自己株式を取得する場合には,法的には,会社の株主に対する資本の払い戻しとして把握するため,会社から株主に支払われる金銭は,資本金の払い戻しと会社の留保利益の分配の合計ととらえ「みなし配当」課税となります(法人税法24条1項5号,所得税法25条1項5号)。
資本金等の金額から取得原価を控除した金額は譲渡損益となり,分離課税の対象となります。
売却価額から資本金等の金額との差額は,剰余金に該当する部分(資本等の金額を超える部分)のことがみなし配当とされ,総合課税の対象となります。
非上場株式を発行会社に売却した場合には,売却価額がその株式に対応する資本金等の額を超える部分については,みなし配当があったものとして配当課税(源泉徴収の対象)とされます。また,その株式に対応した資本金等の額と取得価額との差額が株式譲渡損益となります。
一つの取引の中に,みなし配当課税と株式譲渡所得課税が混在しています。さらに税率は配当課税の場合,最高で50%(40%の所得税と10%の住民税),配当控除を考慮しても43.6%の高率課税です。さらに譲渡課税は20%(所得税15%+住民税5%)で上場株式の場合の2倍です。このように上場会社株式と非上場会社株式の大きな税負担の差が発行会社に売却した時に生じます。
(2) 相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の特例
相続又は遺贈による財産の取得をした個人でその相続又は遺贈につき相続税があるものが,相続の開始があつた日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に,相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合,みなし配当課税を行わず,株式等に係る譲渡所得等の課税の特例が適用されます(租税特別措置法9条の7)。
この特例については,事業承継と相続税のコラムで詳しく述べています。
(3) 上場会社の場合
個人が所有する上場会社株式を上場会社等の市場買付け又は公開買付けによる自己株式の取得に応じて株式を発行法人に売却した場合には株式の譲渡所得課税のみとなり,10%の申告分離課税で完了します。
第5 株価対策
1 株式評価引下げ策
先に述べた自社株の評価方法である類似業種比準価額と純資産価額を引き下げる方法について説明します。
(1)類似業種比準価額の引下げ
類似業種比準方式は,1株あたりの配当,利益および純資産の各金額について上場の類似業種との対比により評価します。そこで,株式評価を引下げるためには,各要素を引下げることとなります。
① 配当の引下げ
配当の引下げについては,そもそも配当をしないか,または,臨時配当によることが考えられます。臨時配当による場合,株価を計算する上での配当から除外することができます。
② 利益の引下げ
損金を増やす方法が考えられます。
まず,資金の支出を伴う方法として従業員への決算賞与の支給,役員退職金の支給,定期保険の加入等が挙げられます。
これらに対して,資金の支出を伴わない方法として,不要な固定資産の処分,不良在庫の廃棄・処分,売掛金や受取手形などのうちの不良債権の放棄等があります。
③ 簿価純資産の引下げ
損金計上される支出を増やすことによって会社の純資産を減らす方法があります。
(2)純資産価額の引下げ
純資産価額方式は,会社財産を,相続税評価額により評価し,評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等を差し引いた残りの金額を評価額とします。そこで,株式評価を引下げるには,損金計上される支出を増やすことにより会社の純資産を減らす等の方法が考えられます。
2 従業員持株会
従業員持株会については,別のコラムをご参照ください。
3 DES(デット・エクイティ・スワップ)
DESとは,Debt Equity Swapの略称で,債権者が会社に対する債権(会社側から 見た場合には債務)を株式に取り替えることをいい,財務改善の手法の一つです。DESについては,別のコラムにおいて詳述します。以下,株式評価の引き下げとの関連について述べます。
オーナー経営者が会社に自己資金を貸し付けることがよくあります。こうした貸付金は会社の財務状態が健全でない場合になされるのが典型です。このような場合に,相続人が当該金銭債権を相続して会社に対して返還請求をしても,会社に返済の資力がなく回収は容易でありません。
そこで,オーナー経営者の生前に,会社の債務を資本金に組み替えるDESをすることにより,オーナー経営者の相続財産は金銭債権から株式に転換することになります。金銭債権の相続税評価額は債権額であるのに対して,株式の評価は,その基因となった金銭債権の債権額よりも低く評価されますので,DESをすることによって相続財産の評価引き下げを図ることができます。
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