日本人の2010年の人口動態統計をみると、死因の1位は男女ともにガンで35万2千人、2位が心筋梗塞などの心疾患で18万9千人、3位が脳卒中などの脳血管疾患で12万3千人となっています。2位の心疾患と3位の脳血管疾患を合わせると全体の30%弱となり、1位のガンに迫る割合となります。すなわち日本人の3人に1人は心疾患や脳血管疾患という血管の病気で亡くなっている計算になります。
しかも最近の傾向の一つとして、心疾患が原因で亡くなる方が増えてきていることが挙げられます。脳血管疾患による死者は全体として横ばいですが、発症率は若干上がっています。そしていずれにも共通するのは、40代や50代という若い世代で脳卒中や心筋梗塞などに襲われて亡くなる方が増えているという傾向です。つまり働き盛りの中年世代が突然倒れ、そのまま不幸な転機をたどるという悲劇が増えているのです。
これら血管の病気はガンなどとは異なり、ある日突然のように発症して入院生活を強いられ、場合によってはそのまま命を落とす、という急激な経過をたどりがちです。とりわけ一家を支える大黒柱が倒れた場合は、突然にして家族の働き手を失うため、残された家族の経済的な損失や精神的な打撃は計り知れません。会社の社長など組織のリーダーが倒れた場合には、特にそのダメージは大きくなります。
幸いにして一命を取り留めたとしても、病気による「後遺症」が本人と家族を苦しめる場合が少なくありません。例えば脳梗塞にかかり治療を受けた場合でも、半身麻痺や言語障害、認知症などの深刻な後遺症を合併することが多々あります。それによって家庭生活や社会生活に重大な支障を来たし、仕事や様々な活動の機会を失うことにつながるほか、ひどい場合には年余にわたる寝たきり生活を強いられることにもなります。
心臓や脳の血管以外でも、重篤な血管の病気が存在します。代表的なものとして、下肢の動脈が狭窄、閉塞し、下肢の強い痛みに見舞われる閉塞性動脈硬化症があります。この病気にかかると、歩く度に足の痛みに襲われ、長い時間歩くことが出来なくなります。進行すると歩ける距離が短くなり、やがて寝たきり状態に至ります。そして最悪の場合には、下肢が壊疽を起こして切断を余儀なくされるのです。
このように一家や組織の大黒柱を突然失う、重篤な後遺症に悩まされる、あるいは足を失う恐れのある血管の病気ですが、これらをどのように防ぎ、どのように治療するかが医療分野に留まらず、社会的に大きな課題となっています。そのために最もポイントとなるのが、「血管」をいかに健康に保ち、若返らせるかです。そのためには、これらの病気の種類や成り立ちを確認しておくことが先ずは重要です・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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