早わかり中国特許: 第10回 (2) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許: 第10回 (2)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第10回は外観設計特許の新規性及び創作非容易性について解説する。(第2回)

河野特許事務所 2012年6月8日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年2月号掲載)

 

2.外観設計の創作非容易性

 より創作性の高い外観設計を保護すべく第3次法改正により、専利法第23条第2項に創作非容易性に関する規定が新設された。これは日本国意匠法第3条第2項[1]に相当する規定である。

 

専利法第23条第2項

 特許権を付与する外観設計は現有設計又は現有設計の特徴の組合せに比べて、明らかな相違がなければならない。

 

 中国では部分意匠制度が存在しないため、法改正前は他人の複数の登録外観設計の一部分を抜き出し、これらを組み合わせることで登録を受けることができた。例えば、A社の自動車のフロントデザインと、B社のリアデザインとを組み合わせたデザインが登録を受けることができた。このようなデザインの保護防止及び全体的な創作性レベルの向上を図るべく、創作非容易性を保護要件とする専利法第23条第2項が新設された。

 

(1)判断主体

 出願に係る外観設計に係る製品の一般消費者の知識レベル及び認知力を基に評価する。これは新規性の判断基準と同じである。

 

(2)判断対象

 現有設計を対象とする(専利法第23条第2項)。このように創作非容易性は現有設計のみを対象とする点で、現有設計に加えて抵触出願(拡大先願)をも判断対象とする新規性(専利法第23条第1項)とは相違する。

 

(3)判断基準

 創作が容易か否かは

(i)同一・類似製品間で相違が明らかか否か、

(ii)現有設計の転用か否か、

(iii)複数の現有設計の組み合わせか否か、

の3つの基準により判断される。以下、3つの基準の詳細を説明する。

 

(i)第1基準 同一・類似製品間で相違が明らかか否か

 出願に係る外観設計が、同一または類似製品の現有設計と比べて、明らかな相違がない場合、創作容易と判断される。

 一般消費者が出願に係る外観設計と現有設計とを全体観察し、デザイン全体の視覚効果に顕著な影響を与えないと認識する場合、明らかな相違がなく、創作容易と判断される。係争意匠が種別の同一又は類似する製品の現有設計と比べて明らかな相違があるか否かを判断する際、以下に挙げる要素をも統合的に考慮する。

 

  (a) 出願に係る外観設計と現有設計を全体観察する場合、使用時に見えやすい箇所により注目して判断する。使用時に見えやすい箇所のデザインの変化は一般的に、見づらいまたは見えない箇所のデザインの変化と比して、全体の視覚効果に対してより顕著な影響を与える。例えば、テレビの裏面または底面に対し、一般消費者は注意を寄せないため、全体の視覚効果に対して与える影響は少ない。ただし、見づらい箇所における特定のデザインであっても、一般消費者の注意を引く視覚効果をもたらすことが、証拠によって示されている場合は除かれる。

 (b)製品におけるあるデザインが当該類別の製品の通常のデザイン(例えばプルトップ缶の円柱形状の設計)であることが証明された場合、それ以外のデザインの変化は一般的に、全体の視覚効果に対してより顕著な影響を与える。

 (c)製品の機能によって唯一限定される特定形状は一般的に、全体の視覚効果に対して顕著な影響を与えない。例えば、自動車タイヤの円形形状は機能によって唯一に限定されるため顕著な影響を与えないが、タイヤ表面の図案は唯一限定されるものでないため、全体の視覚効果に対してより顕著な影響を与えることになる。

 (d)局部の軽微な変化にすぎない相違点は、全体の視覚効果に対して顕著な影響をもたらすには不充分であり、両者に明らかな相違がないと判断される。例えば、出願に係る外観設計と現有設計とが電気炊飯器であり、相違点が制御ボタンの形状の違いだけであり、当該制御ボタンは電気炊飯器の局部の軽微なデザインとして、全体デザインに占める割合も少ないため、全体の視覚効果に対する顕著な影響は少ない。

 

(ii)第2基準 現有設計の転用か否か

 出願に係る外観設計が現有設計の転用であり、両者のデザイン特徴が同一であるか、あるいは軽微な差異にすぎず、また当該具体的な転用手法について、種別の同一または類似製品の現有設計に啓示(示唆、動機付け)がある場合、創作容易と判断される。ただし、転用により独特の視覚効果が生じている場合は創作が非容易と判断される。

 具体的には以下の場合に転用により創作容易と判断される。

(a)単なる基本的な幾何形状を用いるか、または、軽微な変化だけが施されたデザイン

(b)自然物または自然景色の原形態の単純模倣によって成されるデザイン

(c)著名建築物または著名作品の全部または一部の形状、図案、色彩の単純模倣によって成されるデザイン

(d)他種別の製品におけるデザインの転用で成される玩具、装飾物、食品類製品のデザイン

 

(iii)第3基準 複数の現有設計の組み合わせか否か

 出願に係る外観設計が、現有設計または現有設計の特徴の組み合わせであり、当該現有設計が出願に係る外観設計の相応するデザイン部分と同一または軽微差異にすぎず、当該具体的な組み合わせについて、種別の同一または類似製品の現有設計に啓示がある場合、創作容易と判断される。

 ただし、組み合わせることにより独特の視覚効果、即ち組み合わせにより予期せぬ視覚効果が生じている場合は創作が非容易と判断される。

 具体的には以下の場合に組み合わせにより創作容易と判断される。

(a)同一または類似な製品における複数の現有設計をそのまま、若しくは、微細な変化を施すことにより直接組み合わせたデザイン。例えば、数点の部品のデザインを単に寄せ集めて組み合わせたデザイン。

(b)製品に係るデザイン特徴を同一または類似製品に係る別のデザイン特徴をそのまま、または、微細な変化を施して置換したにすぎないデザイン。

(c)製品の現有の形状デザインと、現有の図案、色彩またはその結合とを直接に組み合わせたにすぎない当該製品のデザイン。または、現有設計における図案、色彩またはその結合を、他の現有設計における図案、色彩またはその結合に置換したにすぎないデザイン。

 

 以上外観設計の新規性及び創作非容易性の要件について詳述したが、知識産権局においては無審査で登録されるため、実務上は、第三者から無効宣告請求がなされた場合にのみ問題となる。類似するか否かの判断は発明特許の創造性と同じく個別具体的であり明確化する事は難しい。次回では最高人民法院が類似の判断基準を示した判例を紹介する。



[1] 日本国意匠法第3条第2項 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

(第3回へ続く)

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