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対象:特許・商標・著作権
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中国特許判例紹介:中国外観設計特許の類否判断 (第2回)
~類否の判断主体~
河野特許事務所 2012年2月27日 執筆者:弁理士 河野 英仁
本田技研工業株式会社
無効宣告被請求人、一審原告、二審上訴人、再審請求人
v.
知識産権局専利復審委員会
一審被告、二審被上訴人、再審被請求人
(2)訴訟及び無効宣告請求の提起
被告は原告から警告を受けたため、2003年10月外観設計特許の非侵害確認訴訟を石家市中級人民法院へ提訴した。また被告は双輪公司2003年12月24日、特許復審委員会に対し、523特許の無効宣告請求を提出した[1]。特許復審委員会は、2005年3月28日口頭審理を開始した。
被告は523特許が、原告自身が過去に出願したJP1004783(以下、引例という)と類似することから、専利法第23条の規定に適合しないと主張した。参考図3は引例の図面である。
参考図3 引例の図面
(3)復審委員会及び北京市第一中級人民法院の判断
2006年3月7日,特許復審委員会は、523特許が引例に類似するとして、523特許は無効との決定[2]をなした。原告はこれを不服として北京市第一中級人民法院に対し上訴した。北京市第一中級人民法院は、523特許は引例に類似するとした復審委員会の判断を維持する判決をなした[3]。原告はこれを不服として北京市高級人民法院へ上訴した。
(4)北京市高級人民法院の判断
北京市高級人民法院も523特許は引例に類似するとし、復審委員会の決定及び北京市第一中級人民法院の判断を維持する判決をなした[4]。北京市高級人民法院が類似と判断した理由は以下のとおりである。
本案において,判断の主体は“自動車”製品、つまりSUV及びセダンを含む全てのタイプの自動車に対して常識的な理解を有する者でなければならない。また、当該者は、外観設計製品間の形状、図案及び色彩の相違点について、ある程度の識別力を備えているが、物品の形状、図案及び色彩の軽微な変化まで注意が行き届かない者をいう。一般消費者が523特許と引例とを全体観察した後に,両者の差異が製品外観設計の全体視覚效果に対し顕著な影響を有さないのであれば,523特許と引例とは類似の外観設計となる。
全体観察によれば,両外観設計は自動車各構成部分の形状、相互間の長さ、広さ、高さ比例関係、ボディ全体形状及びデザインスタイルにおいてほぼ同一である。自動車の全体外形輪郭は一般消費者の視覚に対し与える影響は最も顕著なものである。
523特許外観設計と引例とを比較すれば、主な差異は以下の点にある:
1、523特許ヘッドライトは不規則四辺形を有していること。引例のヘッドライト台形に近似している。;
2、523特許フロントバンパー下方両側にはフォグランプが配置されている。引例はフォグランプが存在しない。;
3、523特許と引例の自動車前部の保護板は共に逆U字形であるが,523特許の保護板には水平のスペーサが設けられ,その底部には小さな保護歯が設けられている。引例の保護板には縦向きのスペースが設けられている。;
4、523特許バックライトはルーフから下へ延び窓の下部にまで延びている。引例のバックライトは基本的に後部窓の高さに相当する。
その他,両者はグリル、テールバンパー、後部ルーフ輪郭等の部分で微細な相違がある。
自動車ボディの側面視図は車体の全体形状を反映しており,一般消費者が購入及び使用する過程において最も容易に観察できる部分であるといえ,全体観察の範囲外とすべきではない。車体側面視図から,523特許と引例の自動車全体形状、車体の高低、ドア及び窓の形状等は皆類似するということが見いだせる。原告が主張する自動車ボディ側面は通常のデザインであるとすることは事実依拠を欠く。反対に自動車の底部、上部は、一般消費者は容易に観察することができず,これらの部位の差異は全体視覚により受ける影響は顕著ではない。
523特許と引例とに存在する差異は局部的な差異であり,一般消費者は特別の注意を払う必要があり、繰り返し対比することでやっと区別することができ,このような差異は全体視覚效果に対し顕著な影響を与えない。従って,両者の全体デザインのスタイル、輪郭形状、組成部品の相互間の比例関係等が近似する状況下,自動車の若干部位の些細な差異を併せたものは顕著な視覚差異を生ずるものではない。よって523特許は引例の構成に対し類似した外観設計であり,523特許は無効とされるべきである。以上のとおり,原告の上訴理由は事実及び法律依拠を欠き,一審判決の認定は正しく,法律適用は正確である。上訴を棄却し、原審を維持する。
原告はこれを不服として最高人民法院へ再審請求した。
3.高級人民法院での争点
争点:判断主体はSUVの一般消費者か、または全てのタイプの自動車の一般消費者か
最高裁では、係争対象であるSUVの一般消費者に対する視覚效果に基づき類否を判断すべきか、或いは、広く全てのタイプの自動車の一般消費者に対する視覚效果に基づき類否を判断すべきかが争点となった。
[1]新凱公司も2004年12月10日523特許に対する無効宣告を請求した。なお、2つの事件は併合された。
[2] 第8105号決定
[3] 北京市第一中級人民法院2006年判決 (2006)一中行初字第779号
[4]北京市高級人民法院2007年判決 (2007)高行終字第274号
(第3回へ続く)
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