事業承継と中小企業承継円滑化法の適用範囲 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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東京都
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事業承継と中小企業承継円滑化法の適用範囲

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相続

2 中小企業承継円滑化法の適用範囲

 中小企業承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例の制度は,円滑な事業承継の実現を目的とするものですから,その限度で認められ,その適用範囲は,法律上限定されています。

(1)特例中小企業者

 まず,遺留分に関する民法の特例の制度を利用できるのは,特例中小企業者です。

ここで,特例中小企業者とは,中小企業者のうち,一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社(金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法67条の11第1項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。)をいいます(中小企業承継円滑化法3条1項)。その注意点は次のとおりです。

 第1に,中小企業承継円滑化法2条に規定する中小企業者であることが必要になります。

 第2に,中小企業者のうち,個人事業主ではなく,会社であることが必要になります。

 第3に,株式を上場し又は店頭登録している株式会社は除かれます。

 第4に,3年以上継続して事業を行っていることが必要になります(中小企業承継円滑化法施行規則2条)。

【特例中小企業者の要件】

・中小企業承継円滑化法2条に規定する中小企業者であること

・個人事業主ではなく,会社であること

・株式上場会社又は店頭登録している株式会社でないこと

・3年以上継続して事業を行っていること

(2)旧代表者

 次に,特例中小企業者の株式等を旧代表者が生前贈与したことが必要になります。

 ここで,旧代表者とは,特例中小企業者の代表者であった者(代表者である者を含みます。)であって,その推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限ります。)のうち少なくとも一人に対して当該特例中小企業者の株式等の贈与をしたものをいいます(中小企業承継円滑化法3条2項)。

その注意点は次のとおりです。

 第1に,旧代表者は特例中小企業者の代表者であった者,または,現に代表者である者でなければなりません。遺留分の算定に係る合意をする時点において,特例中小企業者の代表者を既に辞任している場合であっても,後継者とともに代表者である場合であっても問題はありません。また,会社の代表権を有していれば,社長等の肩書は問題になりません。

 第2に,相続開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外の推定相続人のうち少なくとも一人に対して株式等を生前贈与していることが必要になります。

つまり,旧代表者が遺贈や死因贈与により株式等を譲渡した場合には,適用対象外となります。遺贈や死因贈与はいずれも撤回の自由が認められており(民法1022条,最判昭和47・5・25民集26巻4号805頁),合意の法的安定性を害するとの理由からです。

また,生前贈与は,遺留分を有する推定相続人,すなわち,配偶者および一定の直系血族に対して行う必要があります。

 株式等とは,株式会社の株式のほかに持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)の持分を贈与する場合を含む趣旨です。この株式には,株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式(完全無議決権株式)が除かれます。このような株式は,会社の経営上の意思決定に影響がないため,事業承継の障害にならず,除外されています。

【旧代表者の要件】

・特例中小企業者の代表者であったか又は現に代表者であること

・兄弟姉妹及びこれらの子以外の推定相続人に対して,株式等(完全無議決権株式を除く。)を生前贈与したこと

(3)後継者

最後に,旧代表者の株式等の生前贈与により,後継者の有する議決権が過半数に達したことが必要になります。

 ここで,後継者とは,旧代表者の推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限ります。)のうち,当該旧代表者から当該特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者又は当該贈与を受けた者から当該株式等を相続,遺贈若しくは贈与により取得した者であって,当該特例中小企業者の総株主又は総社員の議決権の過半数を有し,かつ,当該特例中小企業者の代表者であるものをいいます(中小企業承継円滑化法3条3項)。

 その注意点は次のとおりです。

 第1に,旧代表者の推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限ります。)のうち,当該旧代表者から当該特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者又は当該贈与を受けた者から当該株式等を相続,遺贈若しくは贈与により取得した者であることが必要になります。したがって,兄弟姉妹や甥姪を後継者とする場合は適用対象外となります。中小企業承継円滑化法は,一般には,子への事業承継に際しての活用が念頭に置かれているためです(丸山秀平・坂田純一編著『事業承継特例法と事業承継の法務・税務』35頁)。

 第2に,当該株式等を取得することで,当該後継者が単独で総株主又は総社員の議決権の過半数を有していることが必要になります。議決権の過半数を有している必要があるのは,会社の意思決定を支配できないような場合には,事業の安定は見込まれず,円滑な事業承継ではないと考えられるためです。なお,総株主には,株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主は除かれます。

 また後継者が既に所有していた株式等で議決権が過半数を超えている場合には,合意をすることができません(中小企業承継円滑化法4条1項ただし書)。

 これは,後継者が合意の対象となる株式等を除いても議決権の過半数を所有している場合には,合意の対象となる株式等が遺留分減殺請求によって分散したとしても,後継者はなお,議決権の過半数を所有していることから,会社の経営に影響を与えることがなく,円滑な事業承継の実現に関係しないと考えられたためです。

 第3に,遺留分の算定に係る合意をする時点において,現に特例中小企業者の代表者になっていることが必要になります。

【後継者の要件】

・旧代表者の推定相続人(兄弟姉妹及びこれらの子を除く。)であって,旧代表者から株式等(完全無議決権株式を除く。)の贈与を受け又はその贈与を受けた者からその株式等を相続,遺贈若しくは贈与により取得したこと

・総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の過半数を有していること

・現に特例中小企業者の代表者であること

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