(3)退職慰労金について定款の定めがないまたは株主総会決議が行われ
ない場合の救済方法
同族会社において,オーナー取締役と仲たがいする形で退任した取締役に対して,
会社との任用契約において退職金付与の特約があるにもかかわらず,定款の定めま
たは株主総会決議がないため,退職慰労金が支払われないという事態がしばしば生
じます。このような取締役の救済方法について考えてみます。
ア 退職慰労金請求の可否
前述の通り,会社と取締役間の任用契約において退職慰労金を支払う旨の合意が
あっても,定款の定めまたは株主総会の決議がない限り,退任取締役は,原則とし
て,退職慰労金を会社に対して請求することができません。そして,株主総会もほ
とんど開催されず,株式譲渡も制限され,役員が同族のみで構成されている会社の
場合には,会社法361条の適用を排除すべきであるとの主張も考えられますが,こ
れを排斥するのが判例(最判昭和56・5・11判時1009号124頁)です。
では,株主総会の決議のない場合,退職金を支払う旨の合意を会社との間でした
退任取締役は,退職慰労金の請求が一切,認められないのでしょうか。二つの救済
方法が考えられます。
第1の方法としては,取締役の報酬に関して株主総会に代わる全株主の同意があ
る場合にも株主総会があったものと擬制されますから(最判平成15・2・21金法1681
号31頁),総株主の同意を認定することで請求が認められる場合があります(大阪
地判昭和46・3・29判タ266号262頁)。
殊に,一人会社の場合,その株主の同意があれば株主総会決議があったと同様に
考えてよいでしょう
第2の方法としては,株主総会決議欠缺を理由に支払いを拒むことが信義則に反
するという構成です(東京高判平成15・2・24金判1167号33頁)。
その具体的事情としては,①代表取締役が相当の退職慰労金を支払う旨の合意を
したこと,②退職金の額が従業員のそれに近いこと,③取締役会の決議ないし全取
締役の同意があった場合に,全取締役で発行済株式の3分の2以上を所有している
こと,といったものが挙げられます。
他にも,退任取締役が株主である場合には,自ら株主総会の招集請求を行い(会
社法297条),議題提案権(会社法303条)を行使して,退職慰労金に関する株主総
会の決議を得ることも考えられます。
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