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村田 英幸
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閲覧数順 2024年04月18日更新

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取締役の辞任

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第4 取締役の辞任

1 辞任の自由

 取締役は,いつでも自己の意思で辞任することができます(会社法330条,民法651条1項)。ただし,それにより欠員が生ずる場合には,新任の取締役が就職するまで取締役の義務を免れることができない(会社法346条1項)ことに注意が必要です。

また,取締役が会社にとって不利な時期に辞任したときは,やむを得ない事由がない限り,会社の損害を賠償しなければならなくなります(民法651条2項)。

 なお,取締役を辞任した者は,監査役等の場合(会社法345条3項・同条1項)と異なって,辞任後最初に召集される株主総会に出席して,辞任した旨及びその理由を述べることができません。

 

2 辞任の制限

(1)辞任の意思表示の無効可能性

 取締役の辞任によって会社が不利益を被るような場合,辞任の意思表示が信義則(民法1条2項)に反して無効になるでしょうか。

 この点,信義則は一般条項ですから,取締役の辞任に関して適用が全くないとはいえませんが,民法651条2項からすれば,取締役が会社にとって不利な時期に辞任しようとした場合には,辞任の効力を認めたうえで,後は取締役が会社に対して負う損害賠償の問題として解決すべきであると考えられます。ただし,辞任にやむを得ない事由があれば,辞任した取締役には損害賠償責任すら生じません(民法651条2項ただし書)。辞任の意思表示が信義則に反するとの会社の主張を排斥し,取締役はその事由の如何にかかわらず,いつでも会社を辞任し得ると判示した裁判例があります(東京地判昭和55・7・29判タ425号165頁)。

(2)辞任制限特約

 取締役と会社との間で辞任を制限する特約が締結されている場合においては,辞任の効力が否定されるでしょうか。

 この点,辞任制限特約は無効であると判示した裁判例があります(大阪地判昭和63・11・30判時1316号139頁)が,民法651条1項は強行規定ではありませんから,辞任制限特約も当事者間では有効と考えるべきでしょう。ただ,この特約に反した辞任の効力が否定されるのかどうかは別の問題であって,辞任の意思を表明した取締役に職務を強制しても意味がないことから,辞任の効力は否定せず,辞任に関し合理的な額の違約金を定めたものとして効力が認められるものと考えられます(江頭憲治郎『株式会社法第3版』367頁)。

 

3 取締役辞任の効果発生時期

 取締役の辞任は,会社に対する一方的意思表示の到達により効力が生じます(民法540条1項・97条1項)から,会社の承認は必要がありません。

 ただし,取締役が,代表取締役その他株式会社を代表する者にその処置を「一任」

して辞表を提出した場合,その辞任の意思表示の効力の発生を「一任」した相手方

の意思にかからしめたものと解されますから,代表取締役その他株式会社を代表す

る者が決定をなした時に,辞任の効力が生じることになります(東京地判昭和27・

6・23下民3巻6号875頁)。

 

4 辞任の意思表示の相手方

(1)原則

 辞任の意思表示の相手方は,代表機関である代表取締役その他株式会社を代表する者です(江頭憲治郎『株式会社法第3版』367頁)。

(2)例外

ア 代表取締役その他株式会社を代表する者が一人である場合

 代表取締役その他株式会社を代表する者が一人である場合に,その一人が辞任する場合に誰に対して意思表示を行うのかという問題があります。

 この点,取締役会設置会社においては,原則として取締役会を招集して,取締役会に対して辞任の意思表示をする必要があります(東京高判昭59・11・13判時1138号147頁)。もっとも,取締役会の承認決議が必要なわけではありませんから,取締役会の成立を厳密に考える必要はなく,別の方法により取締役全員に辞任の意思が了知されれば辞任の効力が認められます(岡山地判昭和45・2・27金判222号14頁)。

イ 取締役会非設置会社で取締役が一人である場合

 取締役会非設置会社の唯一の取締役が辞任する場合には,同人が幹部従業員に対

し辞任の意思表示受領権限を与えた上で,これに対して意思表示をすることによっ

て,処理できると解すべきとされます(仙台高判平成4・1・23金判891号40頁,

江頭憲治郎『株式会社法第3版』367頁)。

 

5 条件や期限を付けることの可否

 辞任は単独行為であるところ,単独行為には,原則として,条件や期限を付ける

ことができないとされていますが,相手方の地位を不安定にしない限り,辞任の意

思表示に条件や期限を付けることは許されると解されています。そこで,例えば,

監査役に選任されることを条件として取締役を辞任することが認められます(上柳

克郎ほか『新版注釈会社法(6)』80頁)。

 

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