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村田 英幸
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閲覧数順 2016年12月08日更新

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上場株式の買取請求の申立人適格と社債等振替法、その1

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上場株式の買取請求の申立人適格と社債等振替法

 

 最決平成22・12・7民集64巻8号2003頁,判タ1340号91頁

 社債等振替法128条1項所定の振替株式についての会社法172条1項に基づく価格の決定の申立てを受けた会社が,裁判所における株式価格決定申立て事件の審理において,申立人が株主であることを争った場合には,その審理終結までの間に社債等振替法154条3項所定の通知がされることを要する。

 

1 事案の概要

 本件は,株券電子化会社の発行に係る振替株式を有する株主が,会社法172条1項1号に基づき,全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定を求める事案である。本件の主たる争点は,社債等振替法154条3項所定の個別株主通知の要否にある。

2 原決定

 原審は,会社が,前後2回にわたる総株主通知とは別に個別株主通知を受けるメリットはなく,かえって,個別株主通知がされることを要すると解すると,株券電子化会社の株主に通常の会社の場合よりも著しい負担を課すことになること等を理由に,会社法172条1項の価格決定申立権は,(社債等振替法147条4項の定義規定において「少数株主権等」から除外されている)会社法124条1項に規定する権利又は少なくともこの権利に関する規定を類推適用すべき権利であって,社債等振替法154条1項,147条4項にいう「少数株主権等」に該当せず,その行使に際しては個別株主通知がされることを要しないと判断して,これを要するとした原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻すこととした。

3 本決定

 本決定は,

各株主ごとの個別的な権利行使が予定されている会社法172条1項所定の価格決定申立権が,社債等振替法154条1項の「少数株主権等」に該当することは明らかであり,

実質的にも,個別株主通知と総株主通知との通知事項の相違に鑑みると,会社にとって,総株主通知とは別に個別株主通知を受ける必要があること,

会社が裁判所における株式価格決定申立て事件の審理において申立人が株主であることを争った場合,その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要し,かつ,これをもって足りるというベきであるから,個別株主通知を要すると解しても,株主に著しい負担を課すことにはならないこと

等を理由に,個別株主通知がされることを要すると判断して,原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却した。

4 説明

(1) 平成21年1月5日に実施された「株券電子化」とは,株主の権利を表章する有価証券である株券を廃止し,振替機関が管理する振替口座簿の電磁的な記録によってその権利の帰属が定められる振替制度へ移行することをいい,振替制度の下では,上場株式は全て社債等振替法128条1項の「振替株式」となる。

 「個別株主通知」とは,社債等振替法154条3項の定めるとおり,株主からの申出に基づき,振替機関から,発行者に対し,当該株主の名称,氏名,住所のほか,振替株式の種類,数,その数に係る増減の記録等を通知するものである。これに対し,「総株主通知」とは,社債等振替法151条の定めるとおり,例えば,「発行者が基準日を定めたとき」であれば,当該基準日現在における株主やその保有株式数を通知するものであり,保有株式数の増減の記録は通知されないという通知内容の点で,個別株主通知とは大きく相違する。

(2) 個別株主通知の要否の問題は,仮に個別株主通知を要するとすれば,それはいつまでか,という個別株主通知の時期の問題と合わせて争点とされることが多い。本決定前における高裁判例は,大別して次の三つの見解に分かれていた(金判1337号24頁記載の①~③事件参照)。

 第1は,個別株主通知不要説で、本件の原決定と同一の合議体による決定であり,会社法172条1項の価格決定申立権は,少数株主権等に該当しないとして,その行使については個別株主通知がされることを要しないとする見解(東京高決平22.2.18金判1337号24頁の③事件)。

 第2は,個別株主通知必要説(権利行使要件説)で、会社法172条1項の価格決定申立権は,少数株主権等に該当し,個別株主通知は,その権利行使要件であるとして,会社法172条1項所定の申立期間である当該株主総会の日から20日以内にされることを要するとする見解(東京高決平22.1.20金判1337号24頁の①事件)。

 第3は,個別株主通知必要説(対抗要件説)で、会社法172条1項の価格決定申立権は,少数株主権等に該当し,個別株主通知はその対抗要件であるから,株式価格決定申立て事件の審理において申立人が株主であることを争った場合,その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要し,かつ,これをもって足りるとする見解(東京高決平22.2.9金判1337号24頁の②事件)。

 本決定は,このうち第3の見解を採用したものである。

(3) 反対株主の株式買取請求権が少数株主権等に該当することにはほぼ異論がなく,会社法172条1項の価格決定申立権もその一環をなすものと解される。また,個別株主通知を会社法上の対抗要件である株主名簿に代わるものとする社債等振替法154条1項の規定や個別株主通知をめぐる立法当時の議論等に鑑みると,個別株主通知の法的性質は対抗要件であると解される(大野晃宏ほか「株券電子化開始後の解釈上の諸問題」商事法務1873号51頁等)。本決定が第3の見解を採用した背景には,第3の見解がこれらの理解と最もよく整合することにあったものとも思われる。

(4) 本決定に対しては,原決定と比較すれば株主側の権利保護に欠けるとの批判もある。しかし,個別株主通知がされることを要する期間は申出から4営業日程度とすることが予定されており(証券保管振替機構「株券等の電子化に関する説明会資料24-3 個別株主通知の基本日程」),休日を含めてもせいぜい1週間程度で個別株主通知の手続は完了するのが実際の運用でもあると思われるところ,本件において,個別株主通知ができなくなったのは,原審の認定によれば,7月21日頃に個別株主通知の申出書を既に入手していた相手方が,その申出を自らの意思で同月29日まで遅滞させたためであったという極めて特殊な事情によるものであって,通常は,価格決定申立て後であっても速やかに個別株主通知の申出がされれば,審理終結までの間に個別株主通知がされることになるであろうから,上記批判は必ずしも当たらないように思われる。

(5) 先の三つの高裁決定は,「最近のM&Aや組織再編等に係る紛争事案において,地裁レベルでの判断が高裁レベルで覆された場合における当該高裁の判断につき,同じ高裁の判決なのに異なる結論となっている事例」であって,個別株主通知については,その要否と,その時期についても,法令解釈の統一が強く要求されていた。本件は,そもそも個別株主通知がされておらず,個別株主通知の時期についてまで判断する必要のない事案であったが,本決定の要旨部分において「その審理終結までの間に」とわざわざ明記されたのは,この点についても,法令解釈の統一を図ろうとしたものと解される。

(6) 本決定は,株券電子化の下で生じた新たな法律問題であり,高裁レベルで判断が分かれていた個別株主通知の要否につき,最高裁としての判断を初めて示したものであり,理論的にも実務的にも重要な意義を有するものと思われる。

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