(続き)・・視覚に次いで情報量が多いのは「聴覚」です。我々は会話の相手から、声の大きさやトーン、語尾の調子などを通して、話のニュアンスを感じ取っています。聴覚の能力には民族差があり、虫の鳴き声を西洋人など大半の民族が雑音として認識するのに対し、日本人だけが意味のあるメッセージとして受け取っていることが報告されています。それは日本語環境で育った人が虫の鳴き声を左脳で把握するのに対して、それ以外の言語環境で育った人は右脳で把握していることによります。
家庭や職場などで聞こえる「音」に関しては細心の注意が必要です。高速道路や鉄道などの騒音がうるさい場所では、イライラ感や騒音性難聴などの障害が現れやすいので、防音壁や二重窓などの対応が必要となります。室内で問題となるのは、20~100Hzの低周波という低い音と、20Hz以下という人間の耳には聴こえない超低周波です。これらは空調や冷蔵庫などから発生し、ひどくなると頭痛や吐き気、思考能力の減退などを引き起こします。
このような不快な音を少しでも軽減して快適な空間にするためには、室内に自然音やヒーリングサウンドなどの環境音楽を、うるさくない程度に流す方法が推奨されています。適度な環境音楽によって脳の聴覚野が刺激され、ストレスが緩和するとともに創造性が高まります。朝や午前中はテンポがよくモチベーションが上がるような音楽、午後から夕方にかけてはスローなテンポのゆったりとした音楽、夜には眠気を誘うような静かな自然音が良いでしょう。
次に室内の「香り」も大切にしたいものです。人間の五感の中で嗅覚は独特な意味を持っています。視覚、聴覚など他の感覚が大脳新皮質で理性的に判断されるのに対し、嗅覚は嗅神経を経て大脳辺縁系に直接届きます。そのため快不快や好き嫌いなどの感情がダイレクトに起こりやすく、自律神経やホルモンバランスなどに強く影響します。悪臭によって人はイライラし怒りっぽくなるだけでなく、免疫力が低下するために感染症やガンなどにかかりやすくなってしまいます。
逆に良い香りは人を健康にしてリラックスさせます。古来アロマセラピーは自然の薬草などを用いた健康法で、戦国時代などには戦場に赴く前に香を焚いて戦意を鼓舞したものです。ある企業が社員を対象とした香りの実験として部屋に香りを漂わせたところ、業務上のミスをする割合が有意に減少しました。減少率はラベンダーが21%、ジャスミンが34%、レモンが54%と、特にレモンでの有効性が認められました。集中力を増すにはレモンなど柑橘系、リラックスするにはラベンダー系がお勧めです。
アロマセラピーは仕事の能率だけでなく病気の治療や予防にも活用されています。フランスなどでは医師がアロマオイルを処方し、香りを嗅ぐのはもとより、水で希釈して飲用しています。アロマは免疫力や解毒力、代謝を活発にし、慢性疾患や心身症などに効能を示します。アロマオイルの種類によって特徴があり、例えばラベンダーはストレス緩和や血圧降下、ティーツリーは殺菌や感染症改善、ローズマリーはうつ状態などに効能が優れているとされています・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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