(続き)・・さて生活習慣と並び、自然治癒力を左右する要素の一つとして「環境」があります。環境の良し悪しによって免疫力や代謝、自律神経のバランスが左右され、病気に対する抵抗力や治癒の早さがある程度決まります。人間は一日の大半を家庭や職場、学校、病院などの屋内で過ごすため、その建物の内部や周囲の環境は決定的に重要です。居住する場所の環境が悪いと体は治癒力が低下して病気になりやすくなり、心はストレスが溜まって消耗していきます。
我々が周囲の環境から受ける影響は、考えている以上に大きなものがあります。例えば他の土地に転居した途端にぜんそくや花粉症が悪化する、あるいは逆に病気が改善することが往々にしてあります。また古い家から新築の家に住み替えたところ、家族の多くがシックハウス症候群による頭痛や吐き気などに襲われ、あわてて元の古い家に戻ったら直ぐに治った、などという話はよく聞きます。どのような環境に身を置くかによって、健康度や病気へのなりやすさが決まってくるのです。
およそ我々人間の体や心といったものは単独で存在している訳ではなく、周囲の環境と常に関係性を持ちながら存在し活動しています。人間の体や心という「内なる環境」と、人間の周囲にある建物や外気、土壌といった「外なる環境」とは、決して隔絶されたものではなく、互いに密接に関与し合い、一つの融合した世界を形成しています。例えば人間は誰でも呼吸をしますが、それによって肺内の空気と周囲の外気が混じり合い、外気の状態が直接、我々の体内の状況に影響を与えるのです。
環境問題に関して、よく引き合いに出されるのが犯罪対策です。1980年代まで、ニューヨークは年間2千件以上の殺人事件が発生する世界一の犯罪都市でした。しかし90年代以降、急速に犯罪は減少し、凶悪犯罪は半分以下に減りました。それは警察や市民団体を中心とした徹底的な環境改善が奏功したのが最大の要因といわれています。すなわち地下鉄の落書きや割れた窓ガラスの除去、無賃乗車の取り締まりなどを通して、「犯罪の起こりにくい環境」を根気よく作り上げたのです。
また環境は医療現場でも注目され始めています。病院の建物というと、壁が真っ白で冷たい印象を与えますが、これをオレンジ色などの暖色系にし、またランプの光や装飾品などを工夫して暖かい配色にしたところ、手術後の患者の痛みが明らかに軽減し、また入院日数が短縮できたという報告があります。一方学校でも、校舎の壁色やランプを明るい色に変えただけで、不登校や校内暴力が減少して生徒の平均成績も向上した、と伝えられています。
住環境や職場の環境が悪いと様々な病気につながります。例えば家庭内やオフィス内に有害物質が漂っていれば、シックハウス症候群などの中毒性、アレルギー性の病気になりやすく、構造上の理由で体温を奪うようになっていれば、冷え性、自律神経失調、さらにはガンなどに罹りやすくなります。また仮にそのような病気を入院して治療したとしても、良くなって家庭や職場に戻った時に、もし以前の悪い環境がそのまま放置されていれば、再び病気が悪化するのは目に見えています・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
あなたの自然治癒力を引き出し心身の健康づくりをサポートします
病気を治したり予防するにあたり、いちばん大切なのは、ご本人の自然治癒力です。メンタルヘルスを軸に、食生活の改善、体温の維持・細胞活性化などのアプローチを複合的に組み合わせて自然治癒力を向上させ、心と身体の両方の健康状態を回復へと導きます。
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