- 塚本 有紀
- フランス料理・製菓教室「アトリエ・イグレック」 主宰
- 大阪府
- 料理講師
対象:料理・クッキング
- 黄 惠子
- (料理講師)
料理の授業で「鶏のフリカッセfricassée de volaille」を作りました。鶏肉を軽く焼いてから、鶏のフォンの中で煮込み、生クリームで繫いだ料理です。フランスの家庭料理の定番中の定番、私の大好きな料理でもあります。煮込み料理の中で一番好きだと言っても過言ではないくらい。
いったん鶏殻からフォン(だし)を取り、その中で鶏肉を煮ていくわけですから、おいしくないはずがありません。鶏は丸で買って、8つにおろしていきます。胸肉1枚が2人分、腿1本が2人分ですから、1羽を4人分と考えます。骨ごと煮込むほうが圧倒的においしいのはもちろんですが、丸からおろしていくことで、どこにどんな身がついているのか生徒さんに知ってもらうことができます。そして鶏の中で一番おいしいと言われる部位(ソ・リ・レス)がどこなのか、も!
手間がかかるのは確かですが、それに十分見合うだけのおいしさ、なんとも言えない充足感があるのです。
鶏のほろっと煮込んだおいしさ、ソースの滋味深い味わいもさることながら、ソースをいっぱいにつけて食べるご飯も格別においしいものです。
それは派手なおいしさではないかもしれませんが、農産物の恵みを凝縮したような、滋味のあるおいしさ。どっしり地に足のついた、安定感のあるおいしさは、作るたびに感動を覚えます。
きっと昔のフランスの農家では、庭先で飼っていた鶏から作っていたことでしょう。大地の恵みを丸ごとぎゅっといただくような実感があったに違いありません。
授業の後しばらくして、生徒さんで小さいお嬢さんがいるお母さんから、メールをもらいました。
「フリカッセは、地鶏の鶏がらを入手するところから、今回スタートしたのでちょっと大変でしたが、インスタントの鶏がらスープではなくて、フォンから作ると風味は格別であることを、娘たちにも知っておいてほしくて、頑張りました。自己満足ですが、なかなか良い味に仕上がったと思っています」
フォンから作るおいしさを娘さん方に知っておいてほしくて、という一文に私は心を打たれました。
もちろん現代はみんな忙しいのですから、ときに簡便な食品に助けられるのは当たり前にあってよいと思います。しかしせめてそれらの食品が違う味がするということには、当たり前に気づけるべきであると私は常々思っています。
ただしそんな話は授業ではあまりしません。ただ当たり前にフォンを用意して、当たり前に料理を作るだけ。でもこうして気づいてくださる方があるというのはとてもうれしいことでした。
家族のために一生懸命に買い物から始め、時間をかけて調理して、食卓を囲む。賢明で温かな母の愛情が、行間からあふれてくるようでした。
メールには、家族で行った栗拾いの栗で、先日の授業の栗のスープを作った話も書かれていて、「あの栗がこのスープに!」とお嬢さん方がとても喜ばれたのだそうです。買って来た栗とはちょっと違う味がしたことでしょう。それはきっとお嬢さん方の成長の糧になると思います。
時折生徒さんからこんなお話を聞けることは、私にとって大きな幸せです。
いつも鶏のフリカッセを作って食べる度に、のほほんと幸せな気分に浸るのですが、今回はもう一つ違う種類の幸せにも包まれました。
そしてやはり食の仕事に携わることはとても大事で、自分に誇ってよいことだ、と背筋の伸びる思いでもあるのです。
さてちなみに鶏の一番おいしい部位ソ・リ・レスsot-l’y-laisseとは「馬鹿はそれを残す」という意味です。つまり知らないと損! ということ。
腿の付け根の背中側にある、ぶりんとした筋肉のことです。
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