- 塚本 有紀
- フランス料理・製菓教室「アトリエ・イグレック」 主宰
- 大阪府
- 料理講師
対象:料理・クッキング
- 黄 惠子
- (料理講師)
料理の授業で、仔鳩を使ったポトフを作りました。ポトフpot-au-feuというのは、もちろんみなさんご存知のお肉と野菜の煮込み料理、フランスの偉大なる家庭料理のひとつです。
ポpotというのはフランス語で「鍋」、feuは「火」です。つまり火にかけた鍋というわけで、ことこと煮込む豊かなイメージが広がってきます。ちなみにポから始まる料理の単語、他にもたとえばポタージュpotage、ポテpotéなども煮込みを指すのです。
通常ポトフは牛肉で煮込み、お肉もブイヨンも野菜もすべてが一気に煮上がる便利な料理ですが、じつはすべてがほんとにおいしい状態に煮上げるのは、そんなに易しくはありません。こだわって考えるなら肉、野菜、水の比率だけでなく、いつ塩を入れるのか、水の量と質(硬水を使うほうがクリアにあがります)、湯を沸かしてから肉を入れるのか水からか、などなど。でもそんなに小難しく考えなくてもそれなりにおいしくできあがってしまうのもまた煮込みのいいところ。もちろん牛肉だけでなく、豚肉、仔牛、鴨や鶏などいろいろな種類のお肉で作ることができます。
さて話しを本題に戻すと、ずっと前、まだまだ料理教室を始めたばかりの頃でした。「この前、レストランでフォワ・グラのポトフを食べたのだけど、知ってる?」と知人に聞かれました。
「フォワ・グラでポトフ??」
えぇぇ、意味が分からないと思ったのです。なぜならポトフはことこと煮込むもの。フォワ・グラは大半が脂肪ですから、煮込めば脂が出てしまい、あとはスカスカの組織が残るだけのはず。
「で、味は?」「おいしかった」「ふーん」
なぜおいしいのだろう、とは思ったものの、そのまま忘れていました。
巡り巡って今月。すでに牛肉や鴨のポトフは授業でやっていますので、今回は鳩にすることにしました。鳩を水から煮るのはちょっと違う感じがしたので、鶏のフォンから煮込むことに決定。野菜もポトフによく使われるものではないものにしてみようと思いました。蓮根、プチトマト、いんげん、万願寺唐辛子など、その時手に入る野菜を自由な発想で。
思った通りにおいしく煮上がりました。しかしなんだか鳩といえば、やっぱりフォワ・グラを合わせたいなあと思ったとき、ふいにフォワ・グラのポトフを思いだしたのです。
「そうだ。何も煮込まなくてもいいのだ! 他のものだけ煮込んでおいて、フォワ・グラはさっと火を通せば、きっととろんとしておいしいはず!」
まだまだ至らぬ過去の私にはフォワ・グラのポトフのおいしさに思いが至らなかったのです。最近は定義は定義として、時代による新しい解釈、あるいは料理人の新しい自由な解釈で、古くて新しい料理に変化したものがたくさんあるのです。
何年も前のそのレストランの、フォワ・グラのポトフはどんなだったのだろう、と楽しい想像を巡らせながらのポトフ作りでした。
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