オルゴールを売り出そう。 なんでまた…？（１２）

社長がオルゴールを作ろうと言い出しました。仏壇仏具という商品を扱っているため、どちらかというと陰気な会社のイメージから脱皮したいという思いがあったのでしょう。

新入社員募集のための学生説明会を毎年行っていて気になっていたことがありました。それはこの業界の中で比べると、現代仏壇は学生に対して確かに良いイメージを持たれていましたが、陰気な業界であることは間違いのない事実です。広告業界のような華やかなものではありません。集まってくる学生も一般的に地味でおとなしい若者が多かったです。現代仏壇という会社は、業界を少しはみ出しながら、業界をリードしているのだという自負もあり、既成概念を壊し、激しくぶつかってくるような人材を見つけていっしょに仕事をしたかったのでしょう。　しかし初めから社長の考えに賛成するスタッフはあまりいませんでした。オルゴール製作は、仏壇業界とは、あまりにもかけ離れているとみんなは思いました。それにニーズがあるとは思えないという意見です。社長はニーズを作り出さないかぎり、この業界での成長はあり得ないという考え方です。チャレンジしなければ前には進めないだろうというのです。確かにそのとおりで、現代仏壇の発想はそこにあります。

主流の仏壇からは離れないが、その技術を応用した明るいイメージの製品を作りたいと社長は常々考えていました。もの作りの技術だけはどこにも負けないという自身があります。本格的なオルゴールの箱の美しさに魅せられたのでしょう。数十万円もするもので、２種類の木を矢張りで張り合わせたり、クルミの玉杢に線で引いたような繊細な象嵌が施されていたり、とても装飾的に美しいものです。この箱に、故人との想い出の曲を詰め、フタの内側に故人想い出の写真を飾り、さらに音を作り出す機械スペースの隣にも想い出の記念品をおけるように工夫をしたものを作りました。この業界から少しはみ出してはいるものの、現代仏壇の店においてもおかしくはないものです。

この商品名をフォトゴールと名づけました。フォトフレームがついたオルゴールです。新商品を出す時は、とにかくできるだけたくさんキャッチフレーズを考えます。思いつくかぎりモニター上に並べます。開発担当、営業、販売等たくさんのスタッフとコンセプトを共有し、どんな売り方をするか、どんな広告を出すか、どんなセールストークをするか、今後の商品開発をどうするかなど、スタッフ全員が意識を高め、共有することが大事だからです。

みんなでキャッチフレーズ集を作りました。

「想い出の楽しい残し方がもうひとつ増えました」

「大切な想い出を音とともに残しましょう」

「想い出の音がきこえる、あの日の映像が蘇る」

「入学式、遠足、卒業、結婚、出産、人には数えきれない想い出がある」

「私たちのすてきな想い出を息子や娘に見せてやりたい」

「ふたを開けると時間がなぜか止まってしまう。そんなひとときがあってもいい」

「素晴らしい明日のためには、想い出がたくさんある方がいい」

「昨日のことのようにまだ耳にも目にも残っている美しい日々」

「これはあなたのすてきな想い出宝箱」

仏壇の変わりにはなりませんが、仏壇の隣に置く大切な想い出箱という付加価値がついたようです。