急に寒くなったり、暖かくなったりと、気候の変動が激しい毎日ですが、こんな時なぜか増えるのが椎間板ヘルニアの患者さんです。
勉強不足なので、文献として見たことはないのですが、温度や湿度の急変時に多く患者さんが来られるように思います(何か関連があるのでしょうか、ご存知の同業の先生いらっしゃったらご一報ください)。
そんなわけで、えらく寒かったこの冬も終えようという今、やたらと椎間板ヘルニアの患者さんがたくさん病院にやってきて、入院と退院を繰り返しています。
ここ数週間に至っては、常に入院室に椎間板ヘルニアの患者さんが3,4匹入院している状態。
つまり、ダックスフンドで入院室はあふれかえっているわけです。
ダックスフンドで椎間板ヘルニアがよく起こるということは、雑誌やテレビなどでご存知の方も多いと思うのですが、これは都市伝説でも何でもなく、確かな事実です。
昨年椎間板ヘルニアの患者さんが約200件来られました。
この中にはダックスフンドだけでなく、シーズー、ビーグル、コーギーなども(ちなみにうちの実家のコーギーも)含まれるのですが、手術に至った22匹のワンちゃんはすべてダックスフンドでした。
まあ、ちまたにダックスフンドが沢山いるからというのももちろんあるでしょうが、それにしても、多いと思います。
飼い主様でよく「ダックスフンドって胴が長いから椎間板ヘルニアになるんでしょ?」と言われる方がいるのですが、これはあっているようで、ちょっと違います。
ダックスフンドが椎間板ヘルニアになりやすいのは、「胴が長いから」ではなく「足が短いから」です。
同じじゃないの?と言われてしまいそうですが、これは結構大きな違いがあります。
たとえばダックスフンドの顔の大きさに対して、胴は長いかというと別にそうでもなく、これにすらっとした足が生えていたら、普通の犬種なわけです(ちょっと想像すると変ですけど)。
ではなぜ足が短いかというと、ダックスフンドが軟骨異栄養犬種だからです。
軟骨異栄養犬種とは、ざっくり言うと、成長期に骨の両端にある成長軟骨(本来成長を続け長い骨を作る予定だった軟骨)が早い段階で成長が止まってしまう犬種のことを言います。
要はもっと伸びるはずだった骨が軟骨の異常で、成長不良を起こしてしまうため、短い足で完成してしまうわけです。
本来は骨が成長不良を起こすというのはあまり良い特性ではありません。
しかしアナグマを捕まえる狩猟犬という目的から言えば、非常に重宝された特性で、狭い穴に入っていけるよう、より手足の短い犬をという交配が繰り返され、結果ダックスフンドは今の形になったわけです。
この骨両端の軟骨成長不良は実は手足だけではなく、背骨の一個一個にも起きうるわけです。
この背骨の成長不良が原因で椎間板(背骨と背骨の間にあるクッション)にも異常をきたし、椎間板の柔軟性が失われ、ちょっとした衝撃で(それこそ段差を降りたり、立ち上がっただけで)、椎間板ヘルニアが起こってしまいます。
そういう意味ではダックスフンドは一見胴が長く見えますが、実は背骨一個一個は短いくらいかも、というお話になります。
他にもシーズーや、ビーグル、コーギーなども軟骨異栄養犬種です。
最近はダックスフンドブームですので、ダックスフンドの椎間板ヘルニアばかり手術をしている印象がありますが、ダックスブーム以前はシーズーの手術のほうが多かったと記憶しております。
蛇足ですが私のネット上でのハンドルネームは10年以上前から「ダックス」です。
なぜかって?
決まっているじゃないですか、身体的特徴がダックスフンドによく似ているからです。
胴が長いんじゃありません。
足が短いだけです。
この胴に見合ったすらっとした足が生えていれば、きっと身長180cmを超えるモデル体型だったでしょう。
…書いててちょっと悲しくなりますね。
このコラムの執筆専門家
- 沖田 将人
- (富山県 / 獣医)
- アレス動物医療センター センター長
地域に密着したワンランク上のホームドクターを
アレス(Alles)とはドイツ語で「あらゆること」を意味します。インフォームドコンセントの充実、年中無休、CTスキャナ導入など動物たちの幸せにつながることなら、飼い主様のあらゆる要望にお応えしたい。そんな願いを込めて診療に取り組んでいます。
「犬の病気」のコラム
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