民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(3) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(3)

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税制改正 平成22年度税制改正
今日と明日の2回を使い、所得税改革について検討したいと思います。
今日は、税額控除に関する項目から、
「所得税改革の推進」
「年金課税の見直し」
「給付つき税額控除制度の導入」
の3項目について検討します。

まずは、民主党政策集INDEX2009に記載されている文章を確認しましょう。

「所得税改革の推進」
相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き
税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止めます。
所得控除は、結果として高所得者に有利な制度となっています。
例えば、扶養控除(一般)は子育て支援の機能を有していますが、
同じ38万円の所得控除を適用した場合、高所得者が10万円を超える
減税になるのに対して、低所得者では2万円の減税にもなりません。
一方、所得の高低に関係なく税額から一定額を差し引く税額控除や所得控除
から手当への切り替えは中・低所得者に有利な政策です。
給付付き税額控除は、税額控除の額より税額が低い場合、控除しきれなかった
額の一定割合を給付するものであり、税額控除と手当の両方の性格を
併せ持つ制度です。
これらの政策を適切に組み合わせることにより、下への格差拡大を食い止めます。
人的控除については、「控除から手当へ」転換を進めます。
子育てを社会全体で支える観点から、「配偶者控除」「扶養控除(一般。
高校生・大学生等を対象とする特定扶養控除、老人扶養控除は含まない。)」は
「子ども手当」へ転換します。
また、その際は、年金生活者の負担増とならないよう、年金課税の見直しも行います。
給与所得控除については、特定支出控除を使いやすい形にするとともに、
現在青天井となっている適用所得の上限を設ける等の見直しを行います。

「年金課税の見直し」
「公的年金等控除」「老年者控除」は、平成16年度改正以前の状態に戻します。
「公的年金等控除」について、65歳以上の方の最低保障額を120万円から
140万円に引き上げるとともに、50万円を所得控除する「老年者控除」を
復活させます。
ただし、適用には所得制限を設けます。
本措置により、配偶者控除を整理した場合でも、年金生活者の負担増にはなりません。

「給付付き税額控除制度の導入」
相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、必要な人に確実に支援が
できる給付付き税額控除制度を導入します。
生活保護などの社会保障制度の見直しと合わせて、(1)基礎控除に替わり
「低所得者に対する生活支援を行う給付付き税額控除」(2)消費税の逆進性
緩和対策として、基礎的な消費支出にかかる消費税相当額を一律に税額控除し、
控除しきれない部分については給付をする「給付付き消費税額控除」
(3)就労への動機付けのため、就労時間の伸びに合わせて「給付付き税額控除」
の額を増額させ、就労による収入以上に実収入が大きく伸びる形で
「就労を促進する給付付き税額控除」――のいずれかの目的若しくは
その組み合わせの形で導入することを検討します。
ただし、不正還付・不正受給を防ぐためにも所得の正確な把握が必要であり、
納税と社会保障給付に共通の番号制度の導入が前提となります。
なお、税額控除額全額を控除するだけの税額がなく、給付を受けることになる
場合は、その給付額はまずは年金や医療等の社会保険料負担分と相殺する
ことを検討します。


民主党案における所得税改革の最大の目玉は「給付付き税額控除の導入」であろう。
ただ、これは民主党独自の主張ではなく、従来から経済財政諮問会議でも
検討され、自民党税調大綱にも近い将来の導入が謳われていたものである。

現行の税額控除は、税額がゼロになるまでしか控除が受けられないために、
税額控除上限額よりも税額が少ない場合には、控除額が減額されることになる。
ところが、導入が検討される給付付き税額控除は、税額がマイナスになっても
税額控除が受けられるため、税額控除の結果として、中間納付や源泉徴収済みの
税額がなくても、還付税額が生じるというものです。
(詳しくは5月19日の記事と、そこで紹介した森信茂樹「給付付き税額控除」
(中央経済社2008)を参照して下さい。)

ただ、政府税調スタディーグループ報告(詳しくは8月30日記事を参照)
にもあるように、諸外国では不正還付や不正受給に対処するために、
様々な施策がなされており、その管理のためにも昨日紹介した納税者番号制度
の導入が不可避である。

給付付き税額控除は庶民に優しい目玉となる改革であるが、逆に、
庶民にとっては負担増になる可能性が高い改革もある。
扶養控除や配偶者控除といったいわゆる人的控除の廃止である。
8月31日放送のワールドビジネスサテライトでは日本総研の方にインタビュー
されていましたが、むしろこっちで出たかったですね。
あの話では甘いんです。
民主党から公表されているデータでは、子どものいない65歳未満の専業主婦
がいる世帯では、税負担が増えるけれども、中学卒業までの子どもがいる
すべての世帯で、手取り収入が増えるとしていますが、高校生以上の場合は
どうなんですかね。
特定扶養控除(16歳以上23歳未満の子どもが対象)は扶養控除が倍に
なっていますから、月額2万6千円の子ども手当の支給がなくなるだけ
ではなく、一人につき年間63万円の所得控除がなくなるのですから、
最低税率の5%の方(所得195万円以下)で31500円、10%(330万円以下)
なら、6万3千円の税負担増になろう。

また、単身世帯、こどものいない共働き世帯に影響はないと指摘しているが、
扶養控除とともに配偶者控除も廃止されるので、年間給与額103万円未満で
パートをしている方にとっては、配偶者控除38万円がなくなるので、
だんなさんの税金が、5%で19500円、10%で3万8千円増えることになる。

パートをしている奥様がいても共働き世帯といわないということだろうか。
そういう意味では、子どものいない方に対しては非常に厳しい税制になるといえよう。
産めよ増やせよとでも言いたいのだろうか。
出産時助成金の拡充とあわせ、子どもを作らないと不利になりますよと
言われているような気がするんですよね。

逆に、高齢者には手厚いのが民主党案の特長で、最低保障年金制度の導入により、
全ての方が7万円以上の年金を受け取れるようにすることとされています。
税制でも、平成16年度改正によって廃止された「老年者控除」の復活や、
同改正で大幅に減額された「公的年金等控除」を元の水準に戻すだけではなく、
65歳以上の方の控除額を120万円から140万円に引き上げること等、
高齢者に優しい制度が拡充されています。

一番お金がかかる高校生、大学生のお子さんがいる世代に厳しい税負担を求める
改正案については、どうにも納得できないところですね。
野党に転じた自公から厳しい批判に晒されたときに、どう対応するのか、
注目して見ていきたいところです。