工事原価の見積計算根拠に?富士電機30億円申告漏れ - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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工事原価の見積計算根拠に?富士電機30億円申告漏れ

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雑感 業務その他
重電大手、富士電機HDが30億円を申告漏れ、うち6億円が悪質な
所得隠しである旨の報道が29日なされた。
これを受け、富士電機は同日、以下のような発表をし、HP上でも公表した。

本日、読売新聞社の報道におきまして、当社が東京国税局の税務調査を
受けた旨の記事掲載がありました。
本記事掲載は当社が発表したものではありませんが、当社グループは、
2005年3月期(平成16年度)から2008年3月期(平成19年度)までの
課税年度について、東京国税局から連結グループ全体の税務調査を受けました。
調査時における主な指摘は、見積原価に関するもので、特定の売上案件の
見積原価について、税務上の見積根拠が明確でないという内容です。
具体的には、プラント案件はPA(プロジェクトアローアンス)を見積り
するのが一般的です。
一部について将来リスクに備えて繰越しましたが、国税局より税務上の
見積根拠が明確でないとみなされました。
所得隠しなど、不正な意図により生じたものではありません。
今回の件について東京国税局より正式に更正通知書を受領していませんが、
当社グループとして改善すべき点もあり、厳粛に受け止め、現状では
更正を受け入れる予定です。
さらに、これまで申し上げた事情及び追徴税額の規模に照らして、法令及び
社内ルールに基づき対応します。
具体的には、プラント見積案件のチェック機能の強化、経理部門による
監視強化、および関係者に対する社内処分を実施するとともに、
再発防止策に努めていきます。
なお、2009年3月期の連結および個別決算に追徴税額相当を法人税などに
含めて計上しており、2009年度の業績に影響を与えることはありません。



不祥事に対する対応については迅速で嘘をつかない姿勢が大切であり、
その意味では、富士電機の対応は適切なものであったと思う。
この件については、プラント見積案件における見積計算根拠が明確にならず、
工事原価に参入すべき期間に対する認識の違いがあったことが更正の理由に
なろうかと考えられる。
しかし、「期ズレ」だけで重課の対象にするとは考えられないので、報道や
コメントからでは明確にならない何かがあるのかもしれない。

報道やコメントから分かる範囲で言えば、工事原価に対する見積計算根拠
をどう明確にするのかが、税務判断におけるポイントになると思われるが、
これが明確にできなければ、今年4月から原則適用とされた長期請負工事
に対する工事進行基準の適用は許されまい。

その意味では、IFRSに対応する公認会計士による監査報告書の内容と
税務調査の内容とに齟齬が生じる可能性があり、大会社にとっては
税務調査を受けたために、株主から責任を追及され、しかもそれが
公認会計士の監査責任にも影響を与える事態を引き起こしかねない。

早急に公認会計士協会は国税庁と意見の調整を図り、富士電機の問題に
留まらせない問題の一般化努力を示して頂きたいものである。

この点を気にするのは、8月19日に地元葛飾支部で予定している税理士会の
支部研修で、工事進行基準への対応策を講演する予定だからかもしれない。

工事の発注元や元請が工事進行基準に対応するためには、下請業者にも
工事進行基準に耐えうる報告書を上げさせる必要があるから、中小企業にも
対岸の火事などと悠長なことを言っていられない状況にあるからだ。
見積計算根拠の脆弱性は工事進行基準の全面適用という国際的潮流に対する
大いなる批判になろうが、日本特有になってしまったゼネコン方式への
批判にも直結しかねない問題を孕んでいる。

じっくり腰を据えて考えてみたいところだ。