- 寺崎 芳紀
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
- 東京都
- 経営コンサルタント
-
03-5858-9916
対象:経営コンサルティング
- 戸村 智憲
- (経営コンサルタント ジャーナリスト 講師)
- 荒井 信雄
- (起業コンサルタント)
こんにちは!株式会社アースソリューションの寺崎でございます。
今回は、日常生活支援総合事業「以下『総合事業』といいます)について取り上げたいと思います。
現在、総合事業は訪問型サービスと通所型サービスに限り、要支援または事業対象者の方が利用できるサービスとなっています。もともとあった介護予防訪問介護と介護予防通所介護は、介護保険から切り離されて、制度上は別個のサービスとして位置づけられました。
介護保険から切り離されたことにより、総合事業は市区町村独自のサービスとして位置づけられます。サービスの多くは「国基準」とか「現行相当」といって旧介護予防サービスの報酬に準じた体系になっておりますが、理論上は基準を緩和して地域独自のサービスとして位置づけることも可能になっており、実際に行われています。
例えば通所型サービスの場合、介護保険では生活相談員の配置が必須になっていますが、地域によっては基準緩和型サービスを用意しており、相談員を配置しなくてもサービス提供を可能にしている地域もあります。基準緩和ですからその分報酬額は下がるものの、相談員を配置しなくてもよいので運営上は楽(らく)という見方もできます。
訪問型サービスにおいても、要支援者等に対するサービスとして「生活支援型サービス」というものを位置づけ、初任者研修よりも簡単に取得できる研修制度が整備されています。初任者研修以上の修了者は、よりレベルの高いサービスを担っていただき、そうでない方には比較的簡単なサービスを担っていただいて、スタッフ間の差別化を図ろうという狙いがあるようです。
しかし、正直申しましてあまりうまく機能しているようには思えません。
実際には総合事業の実施により、訪問介護事業所や通所介護事業所の収益は下がっています。国は総合事業の導入により、初任者研修よりも簡易に取得できる「新研修」を導入し、総合事業のサービス供給を担ってもらおうと考えていたようですが、うまくいっていません。
昔、「ホームヘルパー3級」という資格がありましたが、ずいぶん前に廃止となりました。
介護職のレベル底上げを目的に、3級制度を廃止して最低でも初任者研修は修了しよう、もっと言えば介護の仕事をするなら介護福祉士を目指そう!という流れになってきたのです。
「新研修」?ヘルパー3級と何が違うのでしょう?
全くもって意味不明です。
そんな取り組みをしても、実際に供給量に見合った新研修の修了者が確保されるはずもありません。
初任者研修修了者と、新研修修了者とで、当然仕事配分の差別化を図らなくてはなりませんが、そもそも人員が少ないために簡単にはいきません。結局、総合事業も初任者研修修了者や介護福祉士のヘルパーさんにお願いせざるを得ず、報酬が介護予防サービスよりも減った部分もあるために、ヘルパー給与と報酬が逆ザヤ状態になってしまったところもあります。
ヘルパーも、稼げない仕事を引き受けたくないというのが、正直な心情でしょう。
当然ながら、そういうところにまでこの制度は配慮してくれていません。
実際、総合事業のサービスを実施しない事業所も出てきています。あるいは人数制限をしているところまで入れれば、結構な数になるのではないでしょうか。
そんな状況下ではありますが、今回国は、総合事業の見直しに関してパブリックコメントを実施するとのことです。その意見を踏まえ、省令を改正する流れとなります。恐らく10月のどこかで改正省令が公表され、施行は来年4月となるでしょう。
論点となっているのは、主として下記の通りです。
・現在、総合事業は要支援者(事業対象者)に限定されていますが、要介護者でも利用できるようにする
・市区町村の判断で、国がガイドラインとして定めている報酬上限額を超えた報酬やサービスを設定することを可能にする
ということです。
本当は、総合事業見直しの本丸であった「総合事業の対象サービスの拡大」「要支援(事業対象)者に限定しているのを、軽度要介護者(介護1~2位)にまで拡大する」という論点については、次回改定には盛り込まないことになりました。
しかし、遅かれ早かれそれは実現されるでしょうが・・・
市区町村独自サービスで、本当に地域の自主性に任せて利便性の高いサービスが利用できるならまだよいですが、混乱を来たす上に事業者の収益を圧迫するような施策は、私はいかがなものかと思います。
パブリックコメントをするとのことですが、そもそも一般の方は総合事業の詳細などほぼ知らないでしょう。ある程度知っている前提でパブコメを行うなら意味もあるでしょうが、そうでないのに実施して、十分な数の意見が集計できぬまま出来レース的に省令が決まっていくように思えてなりません。
総合事業の対象者を要介護者にまで拡大するのも、介護給付費の抑制策の一つでしょう。
どこまで強制力をもって進めていくのかはわかりませんが、私はかなりの自信をもってそう考えています。総合事業の対象者を軽度者にまで拡大するための「布石」といっても過言ではありません。
総合事業は、確かにボランティアレベルの団体(法人格なし)でも、最低限の基準を満たせば実施可能なものもあります。しかし、制度が複雑な上に、事業として行うには収益性に乏し過ぎてメリットがないという声が大半なのではないでしょうか。指定事業者数が増えない一番の理由は、そこにあると思います。
そういう現状を踏まえて改革をする分には、私は大賛成です。
でも、正直あまり期待できません。
介護給付費を節約するという目的の裏をつき、結局は総合事業の形骸化を招くようなことがないように、制度設計をしていただきたいものです。
このコラムの執筆専門家
- 寺崎 芳紀
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
介護事業所の開設から運営まで、オールワンでお手伝いいたします
有料老人ホーム施設長・訪問・通所介護管理者・老健相談員、事業所開発等の経験を活かし、2007年7月に弊社を設立しました。介護施設紹介サービスをはじめ、介護事業所の開設・運営支援等を行い、最近では介護関連の執筆活動にも力を入れております。
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