
- 寺崎 芳紀
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
- 東京都
- 経営コンサルタント
-
03-5858-9916
対象:経営コンサルティング
- 戸村 智憲
- (経営コンサルタント ジャーナリスト 講師)
- 荒井 信雄
- (起業コンサルタント)
政府が推進する「全国医療情報プラットフォーム」の一環として、「介護情報基盤」の構築が本格化しています。この基盤は、介護事業所、ケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村間で介護情報を共有し、連携を強化することを目的としています。2022年から議論が進められてきたこの構想は、いよいよ2026年4月の施行に向けて最終段階を迎えています。
●介護情報基盤構築の背景
2040年頃には、団塊ジュニア世代の高齢化により高齢者人口がピークを迎え、85歳以上の人口増加に伴い介護需要が拡大・多様化すると予測されています。一方で、生産年齢人口の急減により介護分野を含む深刻な人材不足が見込まれます。このような状況下で、質の高い効率的な介護サービスを提供するためには、ICT等を活用した業務効率化が喫緊の課題となっています。
そこで登場したのが「介護情報基盤」です。2022年12月20日の社会保障審議会介護保険部会で、介護情報基盤整備の必要性が明記され、2023年度の介護保険制度の見直しに伴い「健康保険法等の一部を改正する法律」で、介護情報基盤の整備が法的に位置づけられました。
●介護情報基盤の目的と必要性
介護情報基盤は、要介護認定情報、LIFEデータ、ケアプランなど重要な情報を集約し、利用者同意のもと、関係者間で電子的に閲覧・共有する仕組みです。その目的は以下の通りです。
・質の高い効率的な介護サービスの実現
・情報共有の促進
・地域の実情に応じた介護保険事業の運営
・利用者の自立支援と重度化防止
・事務負担の軽減
・医療・介護サービスの質の向上
これらの目的を達成するために、介護情報基盤は地域支援事業として位置づけられ、市町村が実施主体となり、国保連・支払基金への委託も可能とされています。
●介護情報基盤で共有される情報
介護情報基盤では、以下の5つの項目が利用者同意のもと共有されます。
- 介護レセプト情報(ただし、必要な関係者に共有されているため、介護情報基盤では共有しない)
- 要介護認定情報(認定調査票、主治医意見書、介護保険被保険者証など)
- LIFE(科学的介護情報システム)情報
- ケアプラン
- 住宅改修費利用等の情報
これらの情報を共有することで、関係者間の連携が円滑になり、より質の高いケアが提供されることが期待されます。
●介護情報基盤で期待されること
自治体、利用者、介護事業者、医療機関の視点から、介護情報基盤で期待される効果は以下の通りです。
・自治体:地域の実情に応じた介護保険事業の運営、事務負担の軽減
・利用者:自身の介護情報閲覧による自立支援・重度化防止
・介護事業者・医療機関:情報共有の促進、適切なケア提供、医療介護連携の強化、事務負担の軽減、介護サービスの質向上や情報の二次利用の推進
これらの効果により、介護情報基盤は介護サービスの質の向上と効率化、そして医療と介護の連携強化に大きく貢献することが期待されています。
●介護保険証の廃止とマイナンバーカードの活用
2024年7月の社会保障審議会介護保険部会では、介護保険被保険者証をペーパーレス化し、マイナンバーカードに一本化する方針が議論されました。これにより、保険証の作成や郵送、返送に関する事務負担が軽減され、被保険者や事業者の負担も軽減されることが期待されます。
ただし、マイナンバーカードを持たない高齢者への配慮や、認知症高齢者への十分な配慮が必要であり、ペーパーレス化は今後の重要検討課題となっています。
●介護情報基盤の課題
マイナンバーカードによるペーパーレス化以外にも、以下の課題が懸念されています。
・セキュリティ対策:機密性の高い個人情報を保護するための厳重なセキュリティ対策が必要
・本人同意に対する考え方:認知症等で本人から同意の取得が適切に得られないケースへの対応
・システム導入にかかるコスト:小規模事業所や高齢の介護スタッフへの負担軽減策
これらの課題に対して、厚生労働省はガイドラインの作成や支援策の検討を進めています。
●介護情報基盤の施行に向けての準備
国はシステム設計、事業者支援策の構築、自治体システム改修の支援、情報提供等を行い、市町村、介護事業所、医療機関はそれぞれ必要な準備を進める必要があります。
介護情報基盤は市町村の地域支援事業の中で運用されるため、システムの改修費について国からの財政的なサポートが必要との声もあがっており、事業所・施設の負担を極力軽くする措置が検討されています。
●おわりに
介護情報基盤は、介護サービスの質の向上と効率化、医療と介護の連携強化に大きな可能性を秘めていますが、セキュリティ対策や本人の同意取得、システム導入にかかるコストなど慎重に検討・対応すべき課題も多くあります。小規模の事業所や高齢の介護スタッフにとって、システム導入・運用の負担が大きいと考えられるため、介護の質向上のバランスを取りながら、段階的に進めていく必要があるでしょう。2026年4月の施行に向けて、今後も介護保険部会において議論が行われていきます。
このコラムの執筆専門家

- 寺崎 芳紀
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
介護事業所の開設から運営まで、オールワンでお手伝いいたします
有料老人ホーム施設長・訪問・通所介護管理者・老健相談員、事業所開発等の経験を活かし、2007年7月に弊社を設立しました。介護施設紹介サービスをはじめ、介護事業所の開設・運営支援等を行い、最近では介護関連の執筆活動にも力を入れております。
このコラムに類似したコラム
訪問介護の通院等乗降介助 基準緩和へ 寺崎 芳紀 - 経営コンサルタント(2020/11/06 08:00)
(地域密着型)通所介護事業所におけるADL維持等加算 寺崎 芳紀 - 経営コンサルタント(2020/06/03 08:00)
今がチャンス!ケアプランデータ連携システム無料キャンペーンで業務効率化を 寺崎 芳紀 - 経営コンサルタント(2025/04/29 13:00)
介護業界における収益改革:未来を見据えた経営戦略 寺崎 芳紀 - 経営コンサルタント(2025/04/27 13:00)
介護業界における業務効率化:テクノロジーの活用で未来を拓く 寺崎 芳紀 - 経営コンサルタント(2025/04/26 13:00)