会計で会社を強くする(坂本孝司著) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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会計で会社を強くする(坂本孝司著)

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雑感 書評
今日は、TKCで活躍される税理士、坂本孝司先生の著書
「会計で会社を強くする」(TKC出版2008)を紹介します。

坂本先生は、中小企業庁において平成10年に発足された
「中小企業の会計に関する研究会」に専門委員として参加された
中小企業の会計制度のあり方の研究における第一人者です。

本書66ページ以下に研究会の経緯がのっておりますが、

同研究会で、私は「中小企業用の会計基準を策定すべきだ」と
一貫して訴えました。これに対して、他の有力メンバーから
「国際会計基準で世界の会計が統一されようとしている現在、
ダブルスタンダードとなってしまう中小企業用の会計基準なんて
話にならない」「要するに、税理士は国際会計基準が分からない
と言うことか」「あなたの会計事務所は業務レベルが相当
低いんじゃあないの」などと、理不尽な反論を受け続けました。
批判の集中砲火を浴びて、私は身も心もボロボロです。
しかし、「救いの神」もいました。わが国会計学の最高峰、
武田隆二先生が理論的支柱になってくださり、これが決め手と
なって私たちの主張が認められることになったのです。
また、甲南大の河崎照行教授、神戸大の古賀智敏教授も、
孤軍奮闘に近かった私を援護射撃してくださいました。
こうして平成14年6月末、中小企業庁から「中小企業の会計に
冠する研究会」の最終報告書が記者発表されました。
(本書67-69ページ)

とあるように、中小企業用の会計が大企業用の会計と同じで
あるべきだ、という考え方が、学者さんの間での主流であって、
青色申告の実態(記帳代行が税理士の主たる収入源になっている
実態)を全く把握されていない現実が明らかにされている。
坂本先生は、そのような中、武田先生のバックアップがあった
とはいえ、事実上、孤軍奮闘で実務家の声を理論的に整理して、
主張されてきたのです。

また、本書69-70ページは、以下のようにあります。

同報告書は、「中小企業の会計」のあり方、において、
「判断の枠組み」という表題のもとで、「(2)経営者にとって
理解しやすいものであるとともに、其れに基づいて作成される
計算書類が自社の経営状況の把握に役立つこと」として
帳簿の役割を明記し、さらに「考え方」として、「(2)は、
会計の利用者としての経営者からの視点である。従来は、
計算書類の作成は全面的に外部専門家に任せているという
経営者もみられたが、近年、金融情勢・経営環境が一層厳しく
なる中で、係数分析による自社の経営状況の把握や、計算書類の
裏付けのある事業計画の作成が、経営を進める上で、きわめて
重要になってきている。このため、会計のあり方についても、
大多数の経営者が理解できるものであり、その結果作成される
計算書類が自社の経営状況の把握に役立つものであることが
必要である」と解説しています。
「会計の本質的な目的は、経営者への自己報告にある」と
主張してきた私は、この報告書の記述は画期的なものであると
高く評価しています。


私も坂本先生同様、会計の役割は、経営に役立てることにあると
考えておりますので、この報告書には高い評価をしていたのですが、
日税連や会計士協会の報告が出てきて、また、ダブルスタンダード
に対する批判が強まってきている気がしますね。

それであれば、法的安定性と予測可能性を求める法律と同様、
会計基準も時代や経済情勢に流されないブレのない基準である
ことが絶対条件です。昨今の経済情勢にあわせて、時価凍結を
容認するような基準の設定であれば、ブレがある基準でしかないと
言わざるを得ないし、法律側からすれば、会計が法規範足りえない
理由を与えてしまっているのは、会計側であるとしか言いようがない。

古くは、飯塚先生が「正規の簿記の諸原則」
(森山書店<改訂版が昭和63年>)を書かれたのも、会計帳簿の
法的な証拠能力を明確にすることを求めたものであると考えられ、
また、田中耕太郎博士が「貸借対照表法の論理」(昭和17年に
法学協会雑誌に掲載された論文を昭和19年加筆して公刊)を書かれたのも、
「企業が社会的存在である以上、其れは当然社会生活と無関係で
あり得る筈がない。果たして然らば、一応純会計学的立場に於いて
観念せられた貸借対照表の目的は、社会生活の規整を目的とする
法の世界と没交渉であり得ないのである。」(出版時の序)と
あるように、会計は法の根拠に基づいて、法と同様の規範力を
持つことが期待されているはずである。

それが実態に合わない形で、国際的整合性がとれればそれで良いと
考える方が、実務を知らないものの机上の空論に過ぎないと
感じるのは私だけではあるまい。

さらに、本書96ページには、こうあります。

多くの中小企業を指導してきた私の職業会計人としての経験からすれば、
「決算書の信頼性は、記帳の品質に依存する」「会計は本質的には
経営者のために存在する」との発想はきわめて肌に合う思考であると
ともに、会社を強くするために欠くべからざる経営手法であると
考えています。(略)確かに「会計で会社を強くする」という
メッセージをご理解いただいたとしても、「わが社はすでに会計を
しっかりやっているし、税務署が来ても大丈夫。金融機関からも
高く評価してもらっている」として、その後の思考を省略してしまう
方々が多いことも事実です。

そして、坂本先生は、98ページ以下でご自分が実践されている
25のチェックポイントを公開し、税務監査を伴う会計の役割と
税理士の役割を解説されています。

坂本先生の25のチェックポイントはおそらくTKCグループが
実践している税務監査とほぼ同じ内容であろうと思いますが、
これをすべてにおいて実践できているならば、会計は本当に
会社経営の指標として機能し、金融機関も安心して融資することが
可能でしょうね。
私が感じていることではありますが、残念ながらTKCの会員先生の
ところの全てが本当に実践しているとは思えません。
私はTKCではありませんので、中から見れませんけれど、
これだけのことをやれているのであれば、金融機関の担当者が
稟議書の作成に苦慮している実情は改善されているはずですね。

坂本先生は、TKCの研修等で全国を飛び回っているようですが、
飯塚先生の意思を引き継いで、職業会計人のあるべき姿を追及するために、
日夜、同業者への啓蒙活動に活躍されているのでしょう。

坂本先生の研究は、私が法政大学修士課程時代に追及していたテーマに
非常に近いものであり、商法サイドでも、会計サイドでも、
税法サイドでも、研究されている方が非常に少ない分野です。
本書はTKC色が強すぎるきらいはありますが、
坂本先生の研究が大成されることを願っております。