新卒採用、応募者の個人情報 - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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新卒採用、応募者の個人情報

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2 応募者の個人情報

(1) 重要な経歴
 学歴・職務経験など重要な経歴で、かつ、採用するに至った事由について、労働者は真実を告知する義務があり、経歴詐称は懲戒事由に該当すると解される(最高裁平成3・9・19炭研精工事件)。
また、裁判例は、上記の場合には、普通解雇の理由となり得ることを認めている。労使間の信頼関係が損なわれ、採用するに至った理由がなくなるからである。

中途採用者については、退職時証明書、解雇理由証明書(労働基準法22条)の提出を求めるべきであろう。
・退職時証明書、解雇理由証明書(労働基準法22条)
なお、使用者は、労働者から請求があれば必ず交付すべきであり、離職票の交付をもって代えることはできないと解されている。

(退職時等の証明)
労働基準法第22条  労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
○2  労働者が、第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
○3  前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
○4  使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第1項及び第2項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。
  
(2)労働者の個人情報の取得が許されるか

雇入れ時の健康診断(労働安全衛生法66条1項、労働安全衛生規則43条。なお、特別な業務については労働安全衛生規則45条の2以下)を採用にあたって考慮してよいかについて、行政はおおむね否定的に取り扱っているが、一部の例外を除いて、正式にこれを禁止することを明言した通達等はない。
なお、平成5年5月10日付け事務連絡「採用選考時の健康診断について」、平成13年4月24日付け「採用選考時の健康診断に係る留意事項について」が、禁止している根拠とされることが多いが、禁止を明示まではしていないと解される。

労働安全衛生法
(健康診断)
第66条1項  事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
労働安全衛生規則
(雇入時の健康診断)
労働安全衛生規則第43条  事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、3月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
一  既往歴及び業務歴の調査
二  自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三  身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四  胸部エックス線検査
五  血圧の測定
六  貧血検査
七  肝機能検査
八  血中脂質検査
九  血糖検査
十  尿中の糖・蛋白の有無の検査(次条第1項第十号において「尿検査」という。)
十一  心電図検査
(定期健康診断) 労働安全衛生規則 第44条  事業者は、常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し、1年以内ごとに一回、定期に、医師による健康診断を行わなければならない。
(満15歳以下の者の健康診断の特例)第44条の2
(海外派遣労働者の健康診断) 第45条の2
(給食従業員の検便)第47条
(歯科医師による健康診断)第48条

求人の応募者の健康に関する個人情報を収集・取得したり、採用にあたって考慮してよいかについては、応募者の同意を得た上で、応募者が、当該職種、労働者が従事する予定の具体的な業務の内容(労務の提供の内容)に応じて、当該労務の提供をなしうる身体条件などの健康に関する個人情報を取得し、かつ、採用にあたって考慮することは許されると解される。
ただし、「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うにあたっての留意事項について」(平成16年10月29日基発第102907号)第3.4.(4)では、「HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者等は、労働者から取得すべきではない」とされている。
応募者が知らないうちに、事業主がHIVやB型肝炎などの血液抗体検査を行い、不法行為に基づく損害賠償請求が認められた裁判例がある(東京地判平成15・5・28東京都事件、東京地判平成15・6・20、B公庫事件)。

この点、職業安定法との関係が問題となる。
(求職者等の個人情報の取扱い)
職業安定法第5条の4第1項  公共職業安定所等は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
(秘密を守る義務等として、職業安定法第51条の2)。

これを受けて、「職業紹介者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、事業内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号、一部改正平成16年厚生労働省告示第391号)の第4.1.(1)では、①特別な職業上の必要性が存在することその他業務目的達成に必要不可欠であること、および②収集目的を示して本人から収集することを求めている。募集の際に収集してはならない個人情報が列挙されているが、応募者個人の過去・現在の健康状態に関する個人情報は禁止されていない。
(禁止される個人情報)
(ア) 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項(家族の職業、収入、本人の資産等の情報(税金、社会保険の取り合う会等の労務管理を適切に実施するために必要なものを除く)
(イ) 思想、信条(人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書)
(ウ) 労働組合の加入状況(労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報)
ただし、「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うにあたっての留意事項について」(平成16年10月29日基発第102907号)第3.4.(4)では、「HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者等は、労働者から取得すべきではない」とされている。

なお、雇い入れ方法について、行政指導を受ける可能性はある(職業安定法54条、60条)。
職業安定法
(雇入方法等の指導)
第54条、60条  厚生労働大臣、職業安定主管局長又は都道府県労働局長は、労働者の雇入方法を改善し、及び労働力を事業に定着させることによって生産の能率を向上させることについて、工場事業場等を指導することができる。

職業安定法施行規則
(職業安定法第54条 に関する事項)
第35条1項  厚生労働大臣は、労働者の雇入方法の改善についての指導を適切かつ有効に実施するため、労働者の雇入れの動向の把握に努めるものとする。

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