こんにちは。消費者考動研究所 代表 消費者教育コンサルタント/消費生活アドバイザーの池見です。
皆さんは、「消費者トラブルにあわないために、かしこい消費者になりましょう。」「これであなたもかしこい消費者ですね!」といった言葉を見聞きしたこと、ありませんか?消費生活センターなどの啓発チラシや、暮らしのワンポイントアドバイスのコラムなどによく使われる言葉ですね。
でも実は私、この「かしこい消費者」という言葉があまり好きではありません。何となく違和感を感じてしまうのです。
あまのじゃくな考え方かもしれませんが、「消費者トラブルに巻き込また人、たまたまその知識が無かった人は賢くないの?」と思いたくなってしまうからです。その人の頭が悪いみたいな印象を与えかねない、という危惧も含めて。
賢くないからトラブルにあう、のではない!
そこで、念のため「賢い」の言葉の意味を調べてみました。
1 (賢い)頭の働きが鋭く、知能にすぐれている。利口だ。賢明だ。「―・くて聞き分けのいい子供」
2 (賢い)抜け目がない。要領がいい。「あまり―・いやり方とはいえない」「もっと―・く立ち回れよ」
3 恐れ多く、もったいない。
(出展:goo辞書より一部抜粋)
なるほど、「賢い消費者=頭の働きが鋭く知能にすぐれている消費者?」「賢い消費者=要領がいい消費者??」と思ってしまう点に違和感があるのがわかりました。
世の中には、悪質商法や詐欺の被害に関して、「だます奴はもちろん悪いけれど、だまされるほうも悪い。」のような持論をお持ちの方もいらっしゃいます。確かにさまざまなご相談の中には、「もう少し気を付けていれば防げたかもしれない。」「それはあなたに問題があったのではないか。」と思える事例もあります。でも、決してその人たちが「頭が悪い」訳ではないと思います。
不幸にしてトラブルに巻き込まれてしまった人には、いくつかのパターンがあります。
基本的に、悪質商法などの相手の手口は非常に巧妙です。人の心理を研究してマニュアル化するなどの高度な手法を利用する場合もあります。
そのような相手から迫られて、気持ちを急かされて心のすき間を突かれてしまう、たまたま関連する知識を持ち合わせていない、あるいはわかってはいても気持が優しくて強く断ることができない状況に追い込まれることがほとんどです。中には、被害にあったこと自体が恥ずかしいので相談しない方、家族や友人に迷惑をかけると思って泣き寝入りする方も少なくありません。]
更に消費者トラブルは、基本的には相手との関係の中で発生します。
犯罪性が強い詐欺的なもの、双方の意思や理解のずれによって引き起こされるものなど、決して一人だけでトラブルを起こすことはできません。その点では、消費者個人が気をつけていても、頭の良し悪しに関係なく誰もがトラブルにあう可能性を秘めています。
ですから、「消費者トラブルにあわないために、かしこい消費者になりましょう。」のようなキャッチコピーは、特に行政機関などにはお勧めできないフレーズです。なぜならば、ともすれば「現在の皆さんはトラブルにあう可能性が高く、勉強してそのリスクを下げましょう。」と聞こえてしまう可能性があるからです。
消費者としての高いスキルとしての「生きる力」、それは「消費者力」
先日、あるテレビ番組で、皿に入れてラップを掛けたおかずを電子レンジで温める際は、ラップを一部分だけ皿から外して温めると、その部分は熱くならずに手で持つことができると紹介していました。いいアイデアですよね!
きっと、皿を手でつかもうとして熱かった経験を元に改善策を考えて思いついた結果なのでしょう。「電子レンジで温めたのだから、熱いのは当然だよ。気をつければ良いだけじゃない?」と現状をそのまま受け入れていたら、こうした「?=気づき」にはつながらなかったのではないでしょうか。
よく「必要は発明の母」と言われます。この場合の必要とは、現状に甘んじず、「もつとこうなったらいいのにな」と思いつつけている状態を指します。そしてある日突然、「?」と何かに気づいてアイデアが生まれます。暮らしの中の「?」も発明・発見と同じように、常に日常の事柄に興味を持ち、「なぜ?」「どうして?」「どうしたらいいの?」と前向きな疑問(クリティカル・シンキング)を問いかけ続けることで生まれるのです。
この「?」は、そのまま何もしなければ「?」のままで終わってしまいます。
洋服を選ぶ時に選択ラベルを見て、見慣れない絵表示を見つけて「どういう意味だろう?」と思うことができても、何もせずに「?」のままにしていたら、きちんと洗える方法を知らないまま洗濯してトラブルになってしまうかもしれません。
でも、「?」と気づいた時に表示の意味を調べて理解できたら、それは「知識」になります。更に表示に従って実際に洗濯し、トラブルにもならず上手に仕上げることができたら、その知識は身について「知恵」となります。自分で調べたりトライしたことが「知恵」になったら、とても楽しいですよね!すると、もっともっと毎日の暮らしのちょっとした事柄に興味や関心が湧いてきて、このサイクルを繰り返すうちにどんどん「?」が多くなり、そのうち自分のことから周囲のことへ、社会で起きている事へと視野が広がって行くのです。
[興味→「?=気づき」→クリティカル・シンキング→調査・確認→知識を得る→行動→知恵化→次への新たな興味へ…]
この考え方と行動のサイクルを自分の中で習慣化し、沢山の「?」を基に積極的に消費生活を豊かにして、社会とつながりを持って暮らす人は、消費者としての高いスキルとしての「生きる力」を持つと言えます。このようなスキルこそ、「消費者力」なのです。
*ここで私が使用している「消費者力」は、財団法人日本消費者協会が行っている「消費者力検定」とは関係ありません。別の意味合いで独自に定義しています。
→財団法人日本消費者協会 消費者力検定案内サイト
消費者教育は「生きる力」学習
ところで、この考え方と行動のサイクルは、生きてゆく上でのあらゆる場面で活用できます。
・お金の使い方を考える時
・勉強や趣味・教養を身につける時
・仕事を効率良く進めようとする時
・何気ない普段の平凡な生活から楽しみを見つける時
・政治、社会をより良くしようとする時 etc...。
学校教育現場では、平成23年度より本格的に、学習指導要領の中に消費者教育が「生きる力」教育の重要事項として取り入れられました。
現代の多様化した社会の中でしっかりと幸せに生き抜くためには、こうした生活や社会に密接な考え方、すなわち「消費者力」を教える事が重要だからです。
人は生まれてから一生涯「消費者」です。「教育」という言葉自体が学校教育を連想させてしまいがちですが、消費者教育=「生きる力」を身につける学びは、何も子どモたちだけのものではありません。誰でも・どの年代の人にも大切な学びであり、いつでも始められます。
ぜひあなたも、今日から「幸せに生きる力=消費者力」のトレーニングを始めてみませんか?
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このコラムの執筆専門家
- 池見 浩
- (東京都 / 消費生活アドバイザー)
- 消費者考動研究所 代表
消費生活の専門家が消費者教育・啓発や消費者志向経営をサポート
消費生活アドバイザーは、消費者・企業・行政の懸け橋として、法律、生活知識、消費者志向経営や環境問題まで幅広い専門知識を持つ消費生活の専門家です。企業・自治体等で培った豊富な実務経験とノウハウで、貴方の消費者力UPと企業活動をサポートします。
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