年次有給休暇と時季変更権 - 民事事件 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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年次有給休暇と時季変更権

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年次有給休暇と時季変更権

 

労働基準法39条で、年次有給休暇が労働者の権利として規定されている。

その権利の法的性質として、

労働基準法上の要件が充足されることによって法律上当然に発生する「年休権」

年休を取得する時季を指定する「時季指定権」

の2つから成ると解されている(二分説。 最判昭和4832林野庁白石営林署事件、 最判昭和4832国鉄郡山工場事件)。

 

労働者による時季の指定の方法として、以下の2通りがある。

・具体的に始期と終期を特定して行う場合

・季節を特定して行う場合

 

労働者の時季特定の時期

・労働者の休暇日の前々日までに年次有給休暇を請求しなければならない就業規則の定めは有効である( 最判昭和57318電電公社此花電報電話局事件)。

・時季指定は事前に使用者に告知され、代替要員の確保や時季変更権を使用者が検討しなければならないから、事後的な労働者の時季指定により、当然に年休取得の効力が生じるものではない。このことは、急病その他により、事後的に年休に振り替え処理をされてきたという事実があっても、それは使用者の裁量に過ぎず、上記と同じである。

 

 

使用者の時季変更権

・使用者は、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、労働者が指定した時季に年休を取ることを認めない「時季変更権」がある(労働基準法39条5項)。

・「事業」とは、「事業場」を基準とする( 最判昭和4832林野庁白石営林署事件、同日国鉄郡山工場事件)。

・「事業の正常な運営を妨げる」事実の要否

抽象的な危険・おそれで足りるか、それとも現実に生じる蓋然性まで必要かどうかについては、裁判例は分かれている。

・「事業の正常な運営を妨げる場合」の考慮すべき要素

事業所の規模、業務内容

当該労働者の担当する職務の内容、性質

業務の繁閑

代替要員確保の難易

時季を同じくして年休を指定している他の労働者の人数

級か取得に関する従前の労使慣行など

 

・使用者が「承認しない」という意思表示であっても、使用者の時季変更権の行使に該当する。

・複数日にわたる労働者の時季指定について、その一部についてのみ、使用者は時季変更権を行使することができる( 最判平成4623時事通信社けん責事件)。

・代替要員の確保

 使用者が当該事業場において代替要員を確保できたのに、それをせずに、時季変更権を行使したのは違法である( 最判昭和62710弘前電報電話局事件、 最判昭和62922横手電話中継所事件)。

・代替要員を確保できない客観的な状況にあるときに、使用者が確保の努力をしなかったとしても、時季変更権を行使するのは適法である( 最判平成174関東電通局事件)。

・労働者の指定した長期かつ連続の年休について、使用者が休暇の時季・期間につき時季変更をするかは使用者のある程度裁量の余地がある( 最判平成4623時事通信社けん責事件)。

・社内訓練に参加することは業務上必要であるから、労働者の訓練期間中の年休取得について、使用者の時季変更権の行使は適法である( 最判平成12331日本電信電話年休事件)。

 

 

・労働者が退職する場合に使用者が時季変更権を行使できるか

この論点に関して、明確に判断した裁判例はないようである。

否定説と肯定説がある。

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