(続き)・・副作用は少ないが効果の発現が遅いという印象のある漢方薬が、静かなブームとなっている理由を考えるに当たっては、現代医療の「変質」というものに注目する必要があります。現代の日本は平均寿命が世界一のレベルとなるなど、先進国の中でも「健康長寿」を達成した国と評価されています。実際に乳幼児死亡率が世界最低クラスを維持するなど、様々な点で日本人が健康面で優れている点は少なくありません。ところが実際の生活感覚として、我々日本人は本当に健康であると胸を張って言い切れるのでしょうか。
我が国の医療制度は「国民皆保険」をベースとして、国民が誰でも必要な医療サービスを保険適応で受けることが可能です。他の先進国と比べても最低限の医療を受けられない人は極めて少なく、医療格差は相対的に小さいといえます。それは大変素晴らしいことなのですが、その一方で保険適応となっていない医療サービスを受けることが、現実には難しいという側面もあります。全ての医療サービスが保険適応であれば問題はないのですが、時代の経過とともに求められる医療は当然ながら変化していきます。
現実に日本人が本当に健康になっているかどうかを考えると、大いに疑問符がつくのが実情です。ガンによる死者は増え続けて年間30万人を超え、今や国民の3人に1人はガンで亡くなる時代に入っています。また糖尿病など生活習慣病、花粉症などアレルギー疾患、うつ病など精神疾患は軒並み増加傾向で、いずれも「国民病」といえる蔓延ぶりです。特に持病のない一見して健康な方でも、何となく体調が悪いというケースが少なくありません。まさに「1億総半病人」と表現できる状況といえます。
もちろん日本の医療はこれらの疾患や体調不良に対して、無策だった訳では決してありません。ガンの病巣を見つける内視鏡や画像診断などの検査のレベル、ガンを切り取る手術手技、抗がん剤や放射線を駆使したガン治療のレベルは、間違いなく日本は世界トップクラスと言えるでしょう。また健康診断や人間ドックなどを通した糖尿病など生活習慣病の検出率はたいへん高く、ダイエットや薬物を活用した治療も活発に行われています。少なくとも「西洋医学」の分野で、日本は世界トップレベルに違いありません。
それにもかかわらず、ガンや生活習慣病、アレルギー疾患などの増加を許しているのはどのような理由によるのでしょうか。それは西洋医学中心の「現代医学」が病気や臓器のみに注目し、人間全体の調和や体と心の関係、個人の体質といったものをあまり重視して来なかったことが関係していると考えられます。すなわち病気の表面的な症状や検査データを重視するあまり、病気の原因となっている体質や環境、心の問題、様々なバランスというものを蔑ろにしてきたツケが回ってきているのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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