特に最近、リーダー育成を重要テーマに掲げる企業が増えており、私自身は講師として、それを目的とした研修やセッションなどを行う機会があります。
この時の参加者に対して、私は必ず「自分がなりたいリーダー像」ということを質問しています。自分の上司や先輩を具体的なモデルとしている方、カリスマ経営者や歴史上の偉人の言葉をモットーにしている方、逆に何も思い描いていない方、自分はリーダー適性がないと言ってあまり前向きではない方など、いろいろな方がいらっしゃいます。
そういう中で感じるのは、ご自身のリーダーシップスタイルについて、「合議型」「民主的」「フラットな関係」「話しやすい雰囲気」といったことを重視する人が増えているということです。チーム内での「分かち合い」を大切にするような価値観です。
最近は体育会系の部活動でも、かつての封建的な上下関係からはずいぶん変わり、フラットな上下関係になってきているといいますから、世の中全体の流れとしてもそういうことなのでしょう。
私も、必要以上の封建的な上下関係は、組織のコミュニケーション不良を起こし、上司の間違いを修正できず、部下は他責傾向でやる気を無くしていくなど、組織の生産性を下げてしまうだけなので、全く好ましいことではないと思っています。
ですから、この「分かち合い型リーダー」は、総論としては良い方向だと思うのですが、その中で少し気になる点もあります。
「分かち合い型リーダー」を志向する人は、その反面で「自分で引っ張っていく」という意識が希薄な場合があります。チームを構成しているメンバーが、みんな自律と自己判断ができる人たちならば、それでも問題ありませんが、そんな恵まれたチーム体制ばかりとは限りません。
自律不足、経験不足のチームの場合、「分かち合い型リーダー」は、メンバーたちをレベルアップさせるというより、自分がメンバーたちのレベルに降りて行こうとする傾向があります。メンバーたちと同レベルの仕事を分担し、同じように現場業務に関わろうとします。
何か決めなければならないことが出てくると、メンバーを集めて「どうしようか?」と相談し、メンバーの意見を尊重して決定します。“意見を尊重して”というと聞こえは良いですが、実際には“メンバーたちが不満を持たないように”ということが判断基準になりがちです。
リーダーとメンバーの人間関係は良好ですが、結果としてメンバーたちの仕事上のレベルアップにはあまりつながりません。リーダー自身も現場の一作業者として活動していることが多いので、チームマネジメントの能力はあまり身に付きません。
業績が順調な場合は、これでも大きな問題にはなりませんが、目標達成が厳しいような状況になってくると、とたんにリーダー不在という形で問題が噴出してきます。
何か対策を考えようとしても、リーダーが旗を立てて方向づけることができないので、結局は「みんなでそれぞれ頑張ろう!」程度の話にしかなりません。
「分かち合い型リーダー」で一番問題なのは、リーダーがメンバーとの距離を縮めるために、自分自身がレベルを下げて、メンバーたちの中へ降りていってしまうということではないかと思います。
もちろん、同じ目線で考えるという姿勢は必要ですが、逆にメンバーたちをリーダーの目線に引き上げることの方が重要ではないかと思います。
リーダー業務の一部をメンバーにも権限委譲してやらせること、上のレベルの仕事を経験させることが大事になりますが、リーダーが現場の業務を分担してしまうのは、逆にメンバーたちが本来やるべき仕事や、それを経験する機会を奪ってしまっているということになります。
「分かち合い型リーダー」の価値観を持ち、なおかつメンバーたちのレベルアップに意識が向けられるようになれば、組織のリーダー像として望ましいことなのではないかと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
「社員にやる気を出させるヒントになるエピソード集」のコラム
「カリスマリーダー」は配慮が細かいという話(2024/01/31 23:01)
「うちは特別だから」という会社の話(2024/01/10 22:01)
メリットだけではない「離職率の低さ」(2023/12/06 23:12)
「いつでも機嫌が良い」というリーダー資質(2023/11/01 16:11)
「根気の続かない人」と「融通が利かない人」(2023/10/19 13:10)
このコラムに関連するサービス
【無料】250名以下の企業限定:社員ヒアリングによる組織診断
中小法人限定で当事者には気づきづらい組織課題を社員ヒアリングで診断。自社の組織改善に活かして下さい。
- 料金
- 無料
組織の課題は、当事者しかわからない事とともに、当事者であるために気づきづらい事があります。これまでの組織コンサルティングで、様々な組織課題とその改善プロセスにかかわった経験から、貴社社員へのヒアリング調査によって組織課題を明らかにし、その原因分析や対策をアドバイスします。予算がない、依頼先を見つけられないなど、社外への依頼が難しい中小法人限定です。社員ヒアリングのみで行う簡易診断になります。
このコラムに類似したコラム
リーダーを育てる「“適度な”権限委譲」 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2017/09/19 08:00)
あなたと働きたいと言われる店長のシンプル習慣・・・プロローグ:その2 松下 雅憲 - 店長育成・販売促進ナビゲーター(2015/04/25 06:03)
「店舗力診断」をしよう:その86自分ががんばっているからと言ってスタッフもがんばれるとは限らない 松下 雅憲 - 店長育成・販売促進ナビゲーター(2014/12/02 06:17)
「店舗力診断」をしよう:その85店長は「承認力」を高めよう 松下 雅憲 - 店長育成・販売促進ナビゲーター(2014/12/01 06:29)
「店舗力診断」をしよう:その83チームワークを評価する基準を持とう 松下 雅憲 - 店長育成・販売促進ナビゲーター(2014/11/29 06:29)