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中国特許判例紹介:パラメータ特許のサポート要件 (第2回)
~ローディア事件と富士化水事件にみる中国のサポート要件~
河野特許事務所 2012年4月13日 執筆者:弁理士 河野 英仁
ローディア化学公司
特許権者、一審原告、二審上訴人
v.
知識産権局専利復審委員会
一審被告、二審被上訴人
4.北京市高級人民法院の判断
当業者の知識、技術発展レベル、技術特徴及び本特許の内容を総合的に考慮し、サポート要件を判断する
サポート要件の根拠となる規定は専利法第26条第4項である。専利法第26条第4項は以下のとおり規定している。
専利法第26条第4項
特許請求の範囲には、明細書に基づき、特許の保護を求める範囲を明瞭かつ簡潔に記載しなければならない。
本件特許明細書によれば、全気孔容量及び比表面積の数値が大きければ大きいほど、触媒効果が向上する旨記載されており、これは当業者に出願当時知られていた。これに対し、552特許明細書の発明部分及び実施例には、全気孔容量の記載に対し、ただ、0.3 cm3/g、0.35 cm3/g、0.6 cm3/g、0.7 cm3/g、0.6~1.5 cm3/gと記載されているにすぎなかった。
人民法院は、当業者からすれば触媒全気孔容量には合理的上限が存在するはずであり、いかなるセリウム及びジルコニウムの混合酸化物を主要成分とする組成物をもって全気孔容量が最大値を達成できるか全く記載されていないと判断した。その他、セリウム及びジルコニウムの両者の関係も記載されていない点を指摘した。
人民法院は、セリウム及びジルコニウムの混合酸化物を主要成分とする組成物の全気孔容量に関し、当業者は明細書の記載を根拠に、合理的に達成される最大値を予期することができないことから、請求項9~15の技術方案は明細書のサポートを得ていないと結論づけた。
5.結論
北京市高級人民法院は請求項9~15について専利法第26条第4項を具備しない、すなわちサポート要件違反と判断した復審委員会の審決および北京市第一中級人民法院の判決を支持する判決をなした。
6.コメント
(1)サポート要件違反に対する注意点
一般に、
「当業者が、他の例について効果を確定・評価困難な場合」、または
「当業者が、通常の実験・分析方法によっても請求項が保護する範囲まで拡張できない場合」
にサポート要件違反となる[1]。
本事件の如く上限のパラメータまたは下限のパラメータが規定されていない請求項についてはサポート要件違反に十分注意する必要がある。本発明の目的は全気孔容量を極力大きくし、触媒効果を高めるものである。孔容量を大きくするにも限度があるはずであり、一般的な範囲のみならず、当業者にとって合理的な全気孔容量を記載しておくべきであった。
このような事件が問題となるのは、中国には訂正審判が存在しない事が背景にある。登録後には、原則として請求項の削除補正しかできず(実施細則第69条)、たとえ本事件にように明細書には0.6~1.5 cm3/gとする記載が存在するとしても、サポート要件を解消する補正を行うことができない。
従って、本発明の如く上限を明確に特定し難い場合は少なくとも、
「全気孔容量が0.6~1.5 cm3/gとすることを特徴とする請求項9に記載の組成物。」
とする従属請求項を作成しておくことが重要である。
(2)富士化水事件におけるサポート要件の争点
関連する事件として富士化水事件がある。富士化水事件では技術的範囲の属否が問題となったほか、別途行政訴訟[2]でサポート要件を具備するか否か争われていた。武漢晶源環境工程有限公司(特許権者)が所有する発明特許第95119389.9号(以下、389特許)に対し、富士化水工業株式会社(審判請求人)がサポート要件違反を理由として無効審判を請求したものである。
ここで問題となった請求項は以下のとおりである。
「請求項1
・・・空気と混合後の海水との比は、:空気が0.1~1.5,海水が1とする・・」
これに対し、明細書には請求項の「0.1~1.5」に対して、0.22と0.36の2点しか開示していなかった。審判請求人は、明細書には、0.1~1.5中のほんの一部分しか開示されていないことから、サポート要件を具備しないと主張した。
復審委員会は、請求人の当該主張に対し、2点だけの開示であっても請求項が明細書のサポートを得ていないということを必ずしも意味するものではないと述べた。その理由として、審判請求人は、2点以外の範囲で、本発明が解決すべき技術課題を解決することができない事を示す証拠を提出していないことを挙げた。すなわち、本発明では当業者が海水に対する空気の量を適宜0.1~1.5の範囲で変化させれば課題を解決でき、発明の効果を確定・評価することができることから、当然にサポート要件を具備すると判断されたのである。当業者が最大値を合理的に予期できないとしてサポート要件違反となったローディア事件とは対照的である。
パラメータで規定する請求項に対する実施例の記載が不十分であれば、サポート要件違反となるおそれがあり、また創造性(専利法第22条第3項)欠如を問われた場合でも、実施例の記載を根拠に先行技術との差別化を行うことができなくなる。特に中国では補正の要件が厳しいこと(専利法第31条)、登録後の訂正制度が存在しない事に鑑み、明細書には十分な開示を行っておくと共に、階層的に従属請求項を作成しておくことが重要といえる。
以上
[1] 審査指南第2部分第2章3.2.1
[2] 復審委員会2006年6月28日審決第8408号、北京市高級人民法院2007年8月1日判決(2007)高行終字第67号
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