賃貸オフィスの入退去をめぐるトラブル(3)退去の場合 - 賃貸契約・敷金・礼金トラブル - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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対象:住宅・不動産トラブル

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賃貸オフィスの入退去をめぐるトラブル(3)退去の場合

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◇           退去に関するトラブル

 ・保証金や敷金の返還(精算)について

敷金は将来発生する賃料を担保するものです。

明渡義務が敷金返還義務よりも先に履行すべき関係に立つため(最高裁判所昭和49年9月2日判決)、原状回復を先に履行すべきこととなります。

ここで、原状回復とは、入居前の状態に回復することをいいます。原状回復を誰がすべきかは、契約に定められています。通常は賃借人が原状回復すべきと定めていることが多いです。

敷金は、未払い賃料、原状回復費用などを控除した残額を返還するものとされています。

敷金は担保という性質のため、未払い賃料などとの相殺を主張することはできません。

 敷金と保証金は区別されています。実務上多いのは、賃貸借契約期間が終了しても、その後一定期間経過後でなければ返還しないという約定のもとの保証金です。これは、確かに賃貸借契約期間の終了時までは債務を担保するという本来の目的は達せられるのですが、賃貸借契約期間の終了後に返還すべき金銭を一定期間消費貸借の目的とするものと判断することになります。

建設協力金とは、(1)そもそも返還しない約束で借家人が賃貸人に支払うもの、(2)返還が約束されているが、建物建設時に消費預託であって、建物等の賃貸に係る預託保証金であり、契約に定めた期日に預託金受入企業は現金を返還するもの、がありします。後者の典型としては、数年間無利息とし、その後数年間で低利の金利が付けられ返済されるものが挙げられます。返還が明渡という事実に関係ない点で、敷金、保証金と区別されます。

 ・賃貸期間中の途中解約について

賃貸借契約で通常3ヶ月前に予告することになっており、途中解約の場合には、その期間使い続けるかまたは3か月分の家賃を補償して即時退去するかのいずれかを選択しなければなりません。

 ・自社で設置した造作や設備の撤去について

 造作とは、建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ、建物の使用に客観的に便宜を与えるものを言います。具体例としては、電灯設備、吊戸棚、ガラス戸、水道施設、レストラン用店舗の調理台・レンジ・空調・食器棚・ダクト設備一式などです。借家に設置した造作等については賃貸借終了時に時価で買い取ることを請求できる造作買取請求権があります(借地借家法33条)。しかし、賃貸借契約で造作買取請求権が通常排除されていますので、自社の費用で撤去しなければなりません。

・           原状回復費用の請求について

家主と賃借人のどちらが原状回復義務を負うのかという問題に関して、最高裁判所平成17年12月16日判決は、以下のとおり判決しました。

「1 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。

2 建物賃貸借契約書の原状回復に関する条項には,賃借人が補修費を負担することになる賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗の範囲が具体的に明記されておらず,同条項において引用する修繕費負担区分表の賃借人が補修費を負担する補修対象部分の記載は,上記損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえず,賃貸人が行った入居説明会における原状回復に関する説明でも,上記の範囲を明らかにする説明はなかったという事情の下においては,賃借人が上記損耗について原状回復義務を負う旨の特約が成立しているとはいえない。」と判決しました。

そもそも通常の損耗であれば、家賃を支払っているのですから、家主が負担するのが合理的といえそうです。この判例は、この点を問題としたものです。

すなわち、明確な説明がない限り、たとえ契約で原状回復義務を賃借人が負うと規定されていても、家主が原状回復義務を負うものと判決しました。

ただし、入居前から破損していたような場合でも、家主が認識していないと紛争になりますから、入居時に家主、賃借人双方が立会い、賃借物件の現状を確認することがベストと言えます。

また、明渡後、リフォームまでの間に破損した場合や、賃借人が汚損と認識していない場合には、どちらが負担するのか紛争になることがあります。そこで、退去時にしっかりと汚損箇所の写真を撮影することが必要となります。

・契約期間

 契約期間が満了したからといって、自動的に立ち退かなくてはならないわけではありません。法定更新といって、家主が更新に応じない場合でも、家主に正当事由がない限り、従前と同一の条件で自動的に契約が更新されたとみなすシステムになっています(借地借家法26条)。

ただし、定期借家(借地借家法38条)の場合には、公正証書で一定期間の後には立ち退くことを賃貸借契約で定めていますので、期間満了と同時に立ち退かなくてはなりません。取り壊し予定の建物の賃貸借(借地借家法39条)や一時使用賃貸借(借地借家法40条)の場合も同様です。また、デパートの店舗貸しのように、借家といえないものについては借地借家法の適用がないとされ、法定更新の制度の適用はありません。

・立退料

 契約が終了するに際して、家主側が正当事由を満たさない場合に、正当事由の補完として、立退料を提供する場合があります。

 これに対して、賃借人側から、立ち退くので、立退料が欲しいと言えるでしょうか。立退料が一般的になったせいで、誤解している人が多いのですが、賃借人側が立ち退く場合には原状回復をした上で、家賃もきっちりと支払う必要があります。立退料は、あくまでも、家主が立ち退いて欲しい場合にのみ、要求できるものですから、賃借人が自主的に立ち退く場合にまで請求することはできません。


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