米国特許判例紹介: 文言解釈と均等論による解釈 (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介: 文言解釈と均等論による解釈 (第1回)

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米国特許判例紹介: 文言解釈と均等論による解釈 (第1回) 

~セミランダムレートの解釈~                

                      Absolute Software, Inc. et al.,

                                      Plaintiffs-Appellants,

                              v.

                        Stealth Signal, Inc. et al.,

                                   Defendants-Cross Appellants.

河野特許事務所 2012年4月2日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

 

1.概要

 特許権侵害の判断にあたってはクレームに記載された文言どおりに解釈するのが原則である。しかしながら、文言解釈を厳格に適用した場合、文言に合致しない迂回技術を採用することで第3者が容易に特許の網をすり抜けることができてしまう。

 

 このような不合理を回避するために、クレームの文言に加え、これと均等な範囲にまで権利範囲を拡張する均等論[1]が存在する。米国においては、クレームされた発明とイ号製品との間の相違が薄弱である(insubstantial)場合、Function-Way-Resultテスト(以下、FWRテストという)を用いた均等判断が行われる。

 

 FWRテストとはイ号製品が、クレームされた発明に対し、実質的に同一の機能(Function)を果たし、同一の方法(Way)で、同一の効果(Result)をもたらす場合に均等と判断する手法である[2]。

 

 本事件ではクレーム中の「セミランダムレート(semi-random rate)」という語の文言解釈が問題となった。特許権者は文言侵害及び均等論に基づく侵害を主張したが、地裁及びCAFCともに文言侵害及び均等論に基づく侵害を認めなかった。

 

2.背景

(1)特許発明の内容

 Stealth(原告)はU.S. Patent No. 5,406,269(以下、269特許という)を所有している。269特許は、電子装置に秘密裏に中央監視装置に発信するエージェントを埋め込む遠隔監視装置に関する発明である。269特許は、電子装置の動作を遠隔にて監視すること、及び、ライセンスなく複数のコンピュータにインストールする等のソフトウェアの不正使用を遠隔にて検出することを目的としている。

 

(2)争点となったクレーム

 争点となったのはクレーム12である。クレーム12[3]は以下のとおり。

 

12. 遠隔地での動作監視システムにおいて

・・・

セミランダムレートで(at a semi-random rate)、前記フォーマット手段からシステムの中央サイト手段へメッセージパケットの送信を前記電子装置のユーザに秘密裏に開始する送信手段。

 

 参考図1を用いて269特許の概要を説明する。

 

 参考図1 処理概要を示すフローチャート

 

 フローチャートにおいて、左側は監視対象となる電子装置側の処理であり、右側は中央監視装置側における処理である。監視手段14は監視対象である電気装置18を監視している。乱数発生器10は乱数を発生させる。監視手段14は乱数発生器10が発生させた乱数に基づくセミランダムレートでパケットを生成し、中央監視装置に発信を行う。

 

(3)訴訟の経緯

 Absolute(被告)はComputraceソフトウェア(以下、イ号製品という)を製造及び販売している。原告はイ号製品が269特許のクレーム12を侵害するとして被告をテキサス州連邦地方裁判所に提訴した。

 

 地裁は、イ号製品が監視センターに対し、前回発信してから24.5時間後に発信を開始することから、「セミランダムレート」の構成要件を具備せず、特許権侵害には当たらないと判断した[4]。原告はこれを不服としてCAFCに控訴した。

 



[1] Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 39–40 (1997)

[2] Graver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Prods. Co., 339 U.S. 605, 608 (1950)

[3] 12. A remote site performance monitoring system for inclusion in an electrical apparatus to monitor and collect performance data thereof during operation surreptitiously of a user of said electrical apparatus for transmitting said collected performance data to a central site means for comparing the received collected performance data with expected performance data for electrical apparatus of the type in which said remote site performance monitoring system has been added, said remote site system comprising:

* * * *

transmission means for initiating, at a semi-random rate, the transmission of the message packet from the formatting means to the central site means of the system surreptitiously of a user of said electrical apparatus.

[4] Absolute Software, Inc. v. Stealth Signal, Inc., 731 F. Supp. 2d 661 (S.D. Tex. 2010)

 

(第2回へ続く)

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