インド特許法の基礎(第1回) (1) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:特許・商標・著作権

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

インド特許法の基礎(第1回) (1)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 特許・商標・著作権
  3. 特許・商標・著作権全般

インド特許法の基礎(第1回) (1)

~特許付与までの基本的な手続きの流れと期限について~

河野特許事務所 2013年6月18日 執筆者:弁理士  安田 恵

 

 

 インド特許出願の基本的な手続きの流れを説明する。典型例として,基礎日本出願に基づいてPCT出願を行い,インドを指定する例を説明する。今回は特に特許付与段階以前の手続きにおいて,注意を要する時期的要件について説明する。期限に対するインド特許庁の対応は比較的厳しく,注意を要する。

 

 

 

1.概要

 

 図1はインド指定のPCT出願の手続きを示した流れ図である。PCT出願によりインドで特許を取得するためには,優先日から31ヶ月以内にインドへ①国内段階出願を行う必要がある。次に,優先日から48ヶ月以内に②出願審査請求を行い,③審査報告対応(拒絶理由対応)を行う。審査報告対応においては,所定期間内に特許付与可能な状態にする必要がある。また,出願人は,特許が付与されるまで④外国出願に関する情報を長官に対して随時通知する義務を負う。以下の説明で参照する条文及び規則は,特に断りが無い限りインド特許法(2005年4月4日法律第15号改正)及びインド特許規則(2005年12月30日S.0.1844(E)号改正 2006年5月5日施行)である。

 

 

 

 

2.国内段階出願(National Phase Application)(第7(1A)

 

 出願人は優先日から31ヶ月以内に国内段階出願を行う必要がある(規則20(4)(i))。優先日から31ヶ月の期限内に提出を要する主な書類は次の通りである。

 

 

 

1)     国内段階出願(第7(1A),規則20(1),様式1

 

2)     明細書・特許請求の範囲等の翻訳文(規則20(3)(b),(5)

 

3)     手数料(第142(1),規則7,規則20(3)(a)

 

4)     外国出願に関する情報を通知する旨の陳述書及び誓約書(第8条,規則12(1),様式3))

 

5)     発明者であることに関する宣誓書(第10条(6),規則13(6),様式5)

 

6)     優先権証明書及びその翻訳文(規則21(1),(2))

 

7)     委任状(第127条,規則135(1),様式26)

 

8)     その他(国際調査報告,国際調査見解書等)

 

 特に上記1),2),3)については31ヶ月の期限を徒過した場合,インドを指定する国際出願は取り下げされたものとみなされる(規則22)。翻訳文の提出期限として1ヶ月の猶予は無く,優先日から31ヶ月以内に提出する必要がある。また,手数料の未納付についても取下擬制の対象になっている(規則22)。長官は規則に定められた31ヶ月の期間を1ヶ月延長できる権限を有しているが(規則138条),実務上は手数料未納付又は不足の場合に手数料納付の期間が与えられると考え無い方が良い。料金が不足している場合,クレームを削除することによって取下擬制を回避することができることが示されたが,長官が手数料納付の期限を延長すべきかどうかについては疑義が残る(OA/60/2012/PT/DEL)。

 

 なお,優先権証明書及びその翻訳文については,最初の審査報告で提出を要請された日から3ヶ月以内に提出しても良い(規則21(3))。

 

 

 

3.審査請求(RFE: Request For Examination

 

 出願人は,優先日から48ヶ月以内に出願審査請求を行う必要がある(第11B条(1),規則24B(1)(i),様式18)。48ヶ月の期間を徒過した場合,出願は取下擬制される(第11B条(4))。なお,長官は規則に規定された期限を延長する権限を有するが,審査請求期限には適用されず(規則138(1)),救済措置は無い。

 

 なおインド特許法においては,優先日を繰り下げる補正(第57条(5),規則137)を行うことが可能である。優先日を繰り下げることによって,審査請求期限の起算日を遅らせることが可能とも考えられるが,優先日の繰り下げ補正による救済は無い(W.P. (C) 801 of 2011)。期限徒過後は既に出願が取下擬制された状態になるため,優先日の補正を行うことができないためである。

 

 

 

4.審査報告対応

 

 図2は審査請求後の審査報告対応の流れを示す流れ図である。

 

 

   

 審査請求を受理した長官は,通常,審査請求日から1ヶ月以内(第11A条の公開の方が審査請求日より後の場合,その公開の日から1ヶ月以内)に願書等を審査官に付託する(第12条(1),規則24B(2)(i))。審査官は審査を行い(第12条(1)),審査の結果を3ヶ月以内に長官に報告する(第12条(2),規則24B(2)(ii))。長官は,“最初の審査報告書(First Examination Report)”を通常1ヶ月以内に出願人に通知する(第14条,第15条,規則24B(2)(iii))。“最初の審査報告書”は,通常,審査請求日から6月以内(第11A条の公開の方が審査請求日より後の場合,その公開の日から6ヶ月以内)に送付されることにはなっている(規則24B(3))。しかし,実際は6ヶ月以内に審査報告書が送付されることは稀であり,約3~4年の期間を要する。

 

 審査報告書の送付に関する期限は厳格では無いが,“最初の審査報告書”が送付された後に出願人に課される期間は厳格である。出願人は“最初の審査報告書”が送付されてから1年以内(アクセプタンス期間と言う。)に特許出願を特許付与可能な状態にしなければ,出願は放棄されたものとみなされる(第21条,規則24B(4))。アクセプタンス期間は延長することができない(規則138)。出願人は1年以内に必要な補正,主張を行う必要がある。

 

 ただし,アクセプタンス期間満了日の10日前(第80条)までに聴聞の申請を行えば,聴聞の機会が与えられ(第14条,規則129),アクセプタンス期間後も出願を特許庁に係属させることができる(W.P.(C) No. 9126 of 2009)。なお,アクセプタンス期間満了日に聴聞を申請して,聴聞の機会が与えられた例もあるが,危険なのでお勧めできない。また,インド特許法は到達主義(規則6(1))を採用しており,電力供給が不安定という諸事情も考えると,余裕を持って対応することをお勧めしたい。

 

(第2回へ続く)

 ソフトウェア特許に関するご相談は河野特許事務所まで

 

 

 

 

このコラムに類似したコラム