- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:事業再生と承継・M&A
- 村田 英幸
- (弁護士)
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第2 会社の一部を譲渡する場合
1 事業譲渡
(1)事業譲渡とは
事業譲渡とは,一定の事業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡し,これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ,譲受会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいいます(最判昭和40・9・22民集19巻6号1656頁)。合併や会社分割などの行為が組織法上の行為であり,消滅会社の全財産が存続会社に包括的に承継されるのとは異なって,事業譲渡の場合,あくまでも取引法上の契約であるため,契約で定めた範囲の財産が個別に移転するにすぎません。したがって,事業譲渡により,資産や債務が当然に譲受会社に引き継がれるわけではありません。
(2)手続
事業譲渡の手続は以下の通りになっています。
①事業譲渡契約の承認(会社法362条4項1号,348条2項)
取締役会設置会社では,事業譲渡契約を締結する前に,各当事会社の取締役会の決議を経る必要があります。取締役会非設置会社では取締役の過半数の賛成が必要となります。
②事業譲渡契約の締結
事業譲渡の場合,合併(会社法748条)や株式交換(会社法767条)等と異なって会社法上,事業譲渡契約の締結が要求されているわけではありません。もっとも,通常の場合,合併や株式交換等と同様,事業譲渡の当事会社の意図を明確にするために,事業譲渡契約書が作成され,取締役会設置会社の場合,代表取締役によって事業譲渡契約が締結されることとなります。
③株主総会による承認(会社法467条)
原則として,事業譲渡の効力発生日の前日までに,各当事会社において,株主総会の特別決議による承認を得る必要があります。
④株式買取請求権(会社法469条)
原則として,事業譲渡に反対の株主には株式買取請求権が与えられています。
各当事会社は事業譲渡の効力発生日の20日前までに,事業譲渡をする旨を株主に対して通知もしくは公告をしなければなりません。
株主による買取請求は,効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに意思表示しなければなりません。
なお,新株予約権買取請求権の制度はありません。
(3)メリット・デメリット
事業譲渡による場合のメリットとしては,当事者は契約によって自由に,譲受人が引き継ぐ資産や負債の内容を決定できるという点があります。
また,合併や会社分割のように,財産を包括的に承継するわけではないので,偶発債務の承継を遮断することができます。
他方で,事業譲渡による場合,その実行には取締役会決議(会社法362条4項)のほかに株主総会の特別決議(会社法467条1項1号2号,309条2項11号)が必要になりますし,反対する株主には株式買取請求権が認められています(会社法469条)。
また,事業譲渡に伴って,資産の譲渡や債務の移転がなされる場合には個別に対抗要件や相手方の当事者の同意を得なければなりません。
また,許認可を取り直す必要もあります。
このように,事業譲渡には,合併や会社分割に比して,手続が煩雑となるというデメリットがあります。
さらに,譲渡会社には競業避止義務が課されるほか(会社法21条1項),譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には,債務を承継しない旨の登記をしない限り,その譲受会社も,譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うことになるので注意が必要です(会社法22条1項)。
譲渡対価は通常は現金です。普通は譲渡会社が譲渡対価を受け取るので,経営者兼株主は退職慰労金名目で実質的な譲渡対価を受け取ることになります。
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