事業承継と会社法(取締役) - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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事業承継と会社法(取締役)

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第2 会社の機関

1 総論

 会社法は,旧商法よりも機関設計の柔軟化を図りました。取締役および株主総会の設置が必須であるほかは,会社法の規定にしたがって,取締役会,監査役等の機関の設置が任意的にできるようになりました。

事業承継において,会社の機関構成を考えるにあたり,押さえておくべきことは,取締役会や監査役を設置しない場合には,その分株主の監視権限が強くなるということです。

そのため,事業承継に反対する株主がいる場合には,取締役会や監査役を置いて株主の監視権限をできるだけ強化しないようにすることが大切です。

他方,事業承継に反対する株主がいない場合には,取締役会等を設置しない方が機動的に会社運営ができるといえます。

 

2 取締役会

(1)取締役会の設置義務

 公開会社,監査役会設置会社,委員会設置会社は,取締役会を置かなければなりません(会社法327条1項)。これに対して,非公開会社では任意的に取締役会を設置することができます(会社法326条2項)。

(2)事業承継対策

 取締役会を設置しない場合には,株主総会における議題提案権(会社法303条1項)・議案要領通知請求権(会社法305条1項)が1株の株主でも行使できる権利(単独株主権)として認められますから,事業承継に反対する株主による濫用的な行使がなされるおそれがあります。

 

□議題提案権・議案要領通知請求権

会社の種類

持株要件

保有要件

取締役会設置会社(公開会社)

総株主の議決権の100分の1以上の議決権(定款で引き下げ可能)又は300個以上の議決権(定款で引き下げ可能)

6か月前から

取締役会設置会社(非公開会社)

総株主の議決権の100分の1以上の議決権(定款で引き下げ可能)又は300個以上の議決権(定款で引き下げ可能)

なし

取締役会非設置会社

なし

なし

※議題提案権・議案要領通知請求権は,原則として,株主総会の会日の8週間前(定款で期間短縮が可能)までに行使されますが,取締役会非設置会社の議題提案権については,かかる制限はなく,株主は株主総会の開催当日においても行使することが可能となります(会社法303条1項参照)。

 

(3)取締役の任期

 取締役の任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法332条1項)。ただし,定款または株主総会の決議によって,その任期を短縮することができます(会社法332条2項)。また,公開会社でない株式会社(委員会設置会社を除きます。)において,定款によって,取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(会社法332条2項)。非公開会社は,実態として所有と経営が分離していない会社が多く,株主に役員の信を頻繁に問う必要性が相対的に低いため,役員の任期の伸張を認めました。2年毎の任期にしておけば,会社にとって好ましくない取締役を排除することが簡単ですが,長期の任期を設定した場合,会社にとって好ましくない取締役を解任することは容易でありません。そのため長期の任期とするかどうかはよく考えてから決めなければなりません。

(定款案)

(取締役の任期)

第○条 取締役△△の任期は,選任後10年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時までとする。

2 その余の取締役の任期は,選任後2年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時までとする。

3 任期満了前に退任した取締役の補欠として選任された取締役の任期は,前任者の任期の残存期間と同一とする。

 取締役の任期伸長の規定を利用することによって,オーナー経営者や後継者である役員の任期のみを10年とし,それ以外の役員の任期は原則通りにしておくと,会社の実情に即した機関構成を実現できます。

(4)取締役の員数

 取締役の員数は,取締役会を設置していない会社では1名でも足ります。もっとも,取締役会を設けた場合,取締役は3人以上でなければならなくなり(会社法331条4項),非公開会社であっても会計参与又は監査役が必要になります(会社法327条2項)。したがって,取締役会を設置しない会社もあると考えられますが,少数株主対策という観点からは,取締役会を設置した方が得策といえるでしょう。

(5)取締役会の招集手続

 取締役会は,常設機関ではなく,必要に応じて開かれるものです。取締役会の招集権は,原則として,各取締役が有するものです(会社法366条1項本文)。ただし,定款又は取締役会で定めたときは,特定の取締役のみ招集権があります(会社法366条1項ただし書)。なお,その場合でも特定の取締役以外の取締役は,会議の目的である事項を示して,取締役会の招集を請求することができます(会社法366条2項)。

 また,監査役も,取締役が不正の行為をし,若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき,又は法令・定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認める場合において,必要があると認めるときは,取締役(特定の取締役)に対して,取締役会の招集を請求することができます(会社法383条2項)。

 監査役設置会社でない場合には,株主は,取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし,又はこれらの行為をするおそれがあると認めるときは,会議の目的である事項を示して,取締役(特定の取締役)に対して取締役会の招集を請求することができます(会社法367条1項2項)。

 取締役会を招集するには,会日から1週間前に各取締役(監査役会設置会社においては各取締役及び各監査役)に招集通知を発しなければなりません。この期間は定款で短縮することが可能です(会社法368条1項)。招集通知は書面によることは要求されていません。また,会議の目的事項を特定する必要もありません。取締役は,議題の如何を問わず,取締役会に出席しなければならないし,業務執行の必要上,その時々の状況に合わせた機動的な会議を可能にする必要があるからです。

 取締役会設置会社において取締役(監査役会設置会社においては取締役及び監査役)全員の同意がある場合には,招集通知をしなくてもよいとされています(会社法368条2項)。


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