米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第6回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第6回)

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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第6回)

~IDS提出基準の大幅見直しへ~

     Therasense, Inc., et al.,

               Plaintiffs Appellants,

           v.

  Becton, Dickinson and Company, et al.,

               Defendants- Appellees.

河野特許事務所 2011年9月9日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(iii)規則1.56の見直し

 CAFC大法廷は規則1.56が様々な問題点を生じさせていることから、当該規則に依拠しないと判示した。

(i) 規則1.56の第1の問題点 適用範囲が広すぎる

 規則56は以下のとおり規定している。

(b) 本条においては,情報は,その情報がその出願に関して既に記録されている又は記録されようとしている情報に累積されるものでなく,かつ,次に掲げる条件に該当しているときは,特許性にとって重要である。

(1) その情報が,それ自体又は他の情報との組合せによって,クレームの不特許性に関する一応の証拠がある事件であることを立証する場合,又は

(2) その情報が,出願人が次に掲げる行為においてとっている立場を反駁するか又はそれと矛盾する場合

(i) 特許商標庁が依拠する不特許性の意見に異議を申し立てること,又は

(ii) 特許性の意見を主張すること

 規則56はさらに、

「不特許性についての一応の証拠がある事件であることは,(クレームの各用語に明細書に合致する最も広い合理的解釈を与え,かつ,)特許性に関する反対の結論を証明するために提出することができる証拠を考慮する前に,情報が証拠の優越,立証責任基準に基づいて,クレームが特許性を有さない旨の結論を強いるとき,立証される。」

と規定している。

 CAFC大法廷は規則1.56の適用範囲が余りに広いと述べた。規則1.56によれば、提出すべき「情報」に関し、たとえ後に特許権者による議論または説明の観点から、当該情報が無関係と見なされる場合でも、重要と見なされるからである。

 

(ii)規則1.56の第2の問題点 あらゆる特許性に関連するものが含まれてしまう

 CAFC大法廷は、ほんの少し特許性に関連があるとされる全てのものが含まれてしまうと、規則1.56の弊害を述べている。

 例えば、出願人が、発明は自明でないと主張した場合、自明性に関するいかなる関連する手続・行動も重要と判断されてしまう。このように、規則1.56は重要性について極めて低い基準を設定しているため、必然的に特許実務家を、取るに足らない関連性を有するにすぎない膨大な先行技術資料を提出させることになっている。そして上述した審査の遅延、訴訟コストの増大などの弊害をもたらしている。

 以上の理由により、CAFC大法廷は規則1.56の採用を否定した。

 

争点4:原審の重要性判断及び意図の判断は誤りである

(i)重要性について

 本事件において、原告は、EPOに対して提出した意見書を開示していなかったことから、地裁は、551特許は不正行為により権利行使できないと判断した。地裁は、PTO規則1.56の重要性基準に基づきEPOにおいてなされた意見書は重要であると判断した。

 しかしながら、地裁はCAFC大法廷が判示した仮定重要性基準に基づく判断を行っていないことから、地裁の重要性に関する判決を無効とした。

 そして、差し戻し審において、地裁は、原告がEPO意見書を提出していたならば、PTOが特許を認めていなかったか否かを、仮定重要性基準に基づき決定しなければならないと述べた。

(ii)欺く意図について

 地裁はEPO意見書を開示しなかったことについて、原告から善意の弁明(good faith explanation)がなかったことから、欺く意図を認定した。

 しかしながら、「被疑侵害者が、最初に明白かつ確信をもつに足る証拠をもって欺く意図を証明しない限り、そもそも特許権者には善意の弁明を行う必要がない。また、地裁は意図の認定に際し、「should have known知っていたであろう」基準を用いた。

 CAFC大法廷は上述した「認識と故意基準」を用いた意図の判断を行っていなかったことから意図を認定した地裁の判決を無効とした。CAFC大法廷は、差し戻し審において、Sanghera博士またはPope弁護士がEPO意見書を認識し、これらの重要性を認識し、かつ、PTOを欺くためにEPO意見書を開示すべきでないとの決定を意識していることを示す明白かつ確信をもつに足る証拠があったか否かを決定するよう、地裁に命じた。

(第7回へ続く)

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