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河野 英仁
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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第18回)

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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第18回) 

~2010KSR ガイドライン~ 

河野特許事務所 2011年2月7日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

(3) Asyst Techs事件[1]

(i)判決骨子:一応の自明が強力に推定される場合、商業的成功及び長期間未解決であった必要性等の二次的考察に係る証拠を提出しても、一応の自明を覆すことはできない。商業的成功または長期間未解決であった必要性に基づく主張は、先行技術と区別可能なクレームの特徴と、商業的成功または長期間未解決であった必要性との関連性が低い場合、その効力が低下する。

(ii)背景

 原告は、U.S. Patent No. 5,097,421(以下、421特許という)を所有している。421特許のクレームは、工場においてある処理位置から次の処理位置へ移動するシリコンウェハ等の品物を追跡する処理システムに関する。参考図29は421特許の図2である。

 

参考図29 421特許の図2

 参考図29に示す処理ステーションと中央制御装置との間の通信は、マルチプレクサにより行われる。

(iii)争点

 先行技術Hesserは、工場における複数の製造工程の間、加工中の製品を追跡する技術に関する。そしてHessrは処理ステーションと中央制御装置との間の通信をバスにより行う。421特許のクレーム2とHesserとの相違は通信がバスにより行われるか、マルチプレクサにより行われるかだけである。このような場合に、421特許のクレーム2がHesserから自明といえるか否かが問題となった。また、原告は商業的成功及び賞賛等、二次的考察に関する証拠を提出した。この証拠により自明の判断を覆すことができるか否かも問題となった。

(iv)CAFCの判断

 CAFCは、クレーム発明と先行技術との相違点は、通信方式としてマルチプレクサを使用するか、バスを使用するかしかなく、自明とした地裁の判断に同意した。

 その理由として、当業者はバスとマルチプレクサとの双方に精通しており、公知の検討材料に基づき、容易にバスまたはマルチプレクサのどちらかを選択・実装することができるからである。

 原告は商業的成功に関する証拠を提出したが、CAFCは、提出された証拠と、クレーム発明との結びつきが十分でないとしてこれを採用しなかった。

 さらに原告は、「他人による賞賛」に係る証拠を提出した。原告は、本システムに対する賞賛があったことは発明が自明でないことを示すものであると主張した。CAFCは当該「他人による賞賛」をも自明を覆すには十分でないと判断した。その理由として賞賛は、全体的なシステム全体に対するものであって、賞賛・成功が、バスをマルチプレクサに変えたことに起因するものではないからであると述べた。

 以上の理由により、CAFCは自明と判断した地裁の判決を支持した。

(v)まとめ

 一応の自明が強く推論されている状況下では、二次的考察を提出しても判断を覆すことが困難であることを示す判例である。2010KSRガイドラインでは審査官に対し、以下の注意を喚起している。

「自明を考慮する際、審査官は注意して、強い一応の自明に対して提示された非自明の客観的証拠に重み付けをしなければならない。もし、商業的成功または長期間未解決であった必要性を満たす証拠が、先行技術に既に存在する特徴に起因するのであれば、証拠の証明力は低減される。」

 

7.コメント

 本稿においては、筆者の専門外である化学及びバイオ分野を除く全12の事例についてできるだけ多くの図を用いて分かり易く解説した。2010KSRガイドラインでは3つの基準、すなわち「先行技術要素の組み合わせ」、「公知要素の置換」及び「試すことが自明」基準に加えて、二次的考察に係る証拠の適用基準が明確に示された。具体的事例を通じて研究することで、機械・電気・情報技術に係る発明が、どのような場合に自明と判断されるかの境目を垣間見ることができる。

 

公表日 2010年9月1日

以上

【関連事項】

2010 KSRガイドラインはUSPTOのHPからダウンロードすることできる[PDFファイル]。

http://edocket.access.gpo.gov/2010/pdf/2010-21646.pdf


[1] Asyst Techs., Inc. v. Emtrak, Inc., 544 F.3d 1310 (Fed. Cir. 2008)

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