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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第13回)
~2010KSR ガイドライン~
河野特許事務所 2011年1月21日 執筆者:弁理士 河野 英仁
問題となったクレーム1は以下のとおりである。
1.ディスプレイを有する発行人(issuer)のコンピュータ、及び、入力装置及びディスプレイを有する少なくとも一つの入札者コンピュータを有する電子オークションシステムにおいて、
前記入札者コンピュータは発行人コンピュータに対し遠隔地に設けられ、これらのコンピュータはコンピュータ間でデータメッセージを通信するためのネットワークを介して接続され、
確定利付き金融商品をオークションするための電子オークションプロセスであり以下の処理を含む:
少なくとも一つの確定利付き金融商品のための少なくとも一つの入札に関するデータを、前記入札者コンピュータに前記入力装置を介して入力する;
前記入力されたデータの少なくとも一部に基づき、少なくとも一つの金利負担(支払利息)額を自動的に計算し、前記自動的に計算された金利負担額は、前記少なくとも一つの確定利付き金融商品に関する借り入れ費用を示す利率(レート)を特定し;and
前記入札者コンピュータからネットワークを介して、前記入力されたデータを送信することにより前記付け値を提出する;
前記ネットワークを介して前記発行人コンピュータへ提出された付け値に関するメッセージを通信し、前記発行人コンピュータのディスプレイに、前記計算された金利負担額を含む前記付け値に関する情報を表示する;
前記入力ステップ、自動計算ステップ、提出ステップ、通信ステップ及び表示ステップの少なくとも一つは、ウェブブラウザを使用することにより実行される。
被告は、既存のParityシステムと比較して、本発明はウェブブラウザを用いたにすぎないから自明であると主張した。地裁は、第1にウェブブラウザの利用が開示されておらず、また、第2に特許が二次的考察によりサポートされていることから、非自明と判断した。
(iii)争点
争点1:既存のParityシステムにWebブラウザを組み合わせ、本発明とすることが、自明か否か。
争点2:二次的考察により、組み合わせによる自明を覆すことができるか否か。
(iv)CAFCの判断
争点1:CAFCは、出願当時にインターネットを用いた技術は十分に確立されており、ParityシステムにWebブラウザを組み合わせ、本発明とすることは自明であると判断した。
1998年5月29日に特許出願された際、Webブラウザは公知であり、099特許明細書自身にも、”a conventional internet browser”と記載されていた。CAFCは自明性分析において、後知恵が働かないよう注意する義務があることを認めた上で、099特許出願時において、オンラインオークションを実行するためにインターネット及びブラウザを使用することは、十分に確立された技術であると述べた。例えば、1996年におけるU.S. Patent No. 5,794,219(以下、219特許という)は、ネットスケープ等のブラウザを使用して付け値を送信するオンラインオークションを開示している。CAFCは、219特許は、本発明に係る金融商品の初期発行人オークションについて言及していないものの、KSR最高裁判決における以下の判示事項を述べた。
「ある研究・作業が、努力傾注分野において利用可能である場合、同一分野及び他分野にかかわらず、デザインインセンティブ及び他の市場圧力は、当該研究・作業の派生を促進することができる。」
このようにCAFCは従来存在した電子プロセスに、現代のインターネット及びWebブラウザ技術を組み合わせることは、099特許出願当時ではありふれたことに過ぎないと結論づけた。
争点2:CAFCは二次的考察によっても自明の判断を覆すことができないと判示した。
原告は本発明について賞賛を受けており、他人の模倣があり、また商業的成功があったことから本発明は非自明であると主張した。具体的には、原告はPittsburgh市の”Innovations in American Government”賞を受賞したことを主張した。しかしながら、CAFCは、原告が主張した事項は、クレームに対する結びつき(Nexus)がなく、強力な一応の自明を覆すには十分でないと述べた。すなわち、クレームに係る発明と、二次的考察に係る証拠との間に結びつきがある場合にのみ、二次的考察に係る証拠が採用される。本事件における受賞理由及び受賞に対する各種報道は、クレームの一部の構成要件にのみ関連するものであり、クレームに対する結びつきを欠くと判断された。
(v)まとめ
二次的考察に係る証拠と、クレームに係る発明とには結びつき(Nexus)が必要とされる。例えば受賞理由または商業的成功が、クレームに係る発明に対し結びつきが弱い場合、非自明と主張する証拠としての重み付けは大きく低下する。
(第14回へ続く)
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