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対象:特許・商標・著作権
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米国特許判例紹介:ソフトウェア特許に対する共同侵害(第4回)
~黒幕が管理・指示を与えたか否か~
Golden Hour Data Systems, Inc.,
Plaintiff-Appellant,
v.
emsCharts, Inc., et al.,
Defendant-Cross Appellants.
河野特許事務所 2010年12月3日 執筆者:弁理士 河野 英仁
5.結論
CAFCは、共同侵害が成立しないとした地裁の判断を支持する判決をなした。
6.コメント
(1)Newman判事の反対意見
これについてNewman判事は反対意見を述べている。C社とS社とは「戦略的パートナーシップ契約」を行った。そしてC社とS社とは双方のソフトウェアプログラムの機能を統合し、一つのパッケージとして販売したのである。プレスリリースでは、2つのソフトウェアがシームレスに移行することも述べられており、C社のS社に対する管理または指示があったことは明らかであるから、共同侵害の成立を認めるべきであると述べている。
以下、本事件で得られた教訓を元に実務上注意すべき点について言及する。
(2)単独当事者の実施行為のみをクレームする。
共同侵害の成立要件「管理または指示」を満たすためのレベルは相当高いことが本事件で明らかとなった。共同侵害に頼ることなく一の被告の直接侵害となるようクレームを作成する必要がある。クレーム作成の際には、他の当事者または一般ユーザの行為が、クレームの構成要件に含まれないよう十分に注意する。
(3)できるだけ多くのカテゴリーについてクレームを作成する。
あらゆる侵害形態が考えられるため、極力多くのカテゴリーのクレームを作成しておくことが望まれる。本事件ではC社とS社との組み合わせソフトウェアを「使用」するのはエンドユーザであり、方法クレームをもってエンドユーザを権利行使することはできない。
しかしながら本事件において、この組み合わせソフトウェアを販売しているのはC社である。C社に対してはシステム、装置、または記録媒体クレームで直接侵害による権利行使が可能である。なお、本事件においてCAFCはシステムクレームによりC社の「販売」行為について直接侵害を問えることを示唆している。以上のとおり、クレーム数は増加するが、極力様々なカテゴリーについて権利化しておくことが望まれる。
(3)間接侵害(寄与侵害)の適用
共同侵害が成立しない場合、米国特許法第271条(b)(c)*7に規定する間接侵害(寄与侵害)を主張することも一つの手段である。しかしながら、米国においては米国特許法第271条(a)*8に規定する直接侵害の存在が前提*9となり、直接侵害が存在しない限り間接侵害の主張が認められない点に注意すべきである。
(4)日本の共同侵害について
日本国特許法には共同侵害についての規定は存在しないが、民法719条*10に規定する共同不法行為に基づき、両当事者に対する特許権侵害を主張し得ると解されている。例えば、スチロピーズ事件*11では、以下のとおり判示されている。
「他人の特許方法の一部分の実施行為が他の者の実施行為とあいまつて全体として他人の特許方法を実施する場合に該当するとき例えば一部の工程を他に請負わせ、これに自ら他の工程を加えて全工程を実施する場合、または、数人が工程の分担を定め結局共同して全工程を実施する場合には、前者は注文者が自ら全工程を実施するのと異ならず後者は数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならないのであるから、いずれも特許権の侵害行為を構成するといえるであろう」
判決 2010年8月9日
(第5回へ続く)
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