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対象:特許・商標・著作権
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米国特許判例紹介 (第3回)
アップル・サムスンのスマートフォン特許訴訟
~ソフトウェア特許の文言解釈~
河野特許事務所 2013年1月8日 執筆者:弁理士 河野 英仁
Apple Inc.,
Plaintiff-Appellee,
v.
Samsung Electronics Co., Ltd., et al.,
Defendants- Appellants.
4.CAFCの判断
結論:各モジュールがそれぞれ別の発見的アルゴリズムを有すると解釈すべき
「複数の発見的モジュール、
各発見的モジュールは各検索エリアに対応し、異なる予め定められた発見的アルゴリズムを有する」
の解釈に関し、地裁は複数とは、「少なくとも2以上」または「単に複数の状態」を意味するから、6つのモジュールの内、少なくとも2つの異なるアルゴリズムがあれば、構成要件を具備すると判断した。
しかしながらCAFCはこれに同意しなかった。「複数」との限定はあるものの、さらに特許権者は、
「複数の発見的モジュール」という文言に、「各発見的モジュールは、異なる予め定められた発見的アルゴリズムを有する」というさらなる限定を課している。従って、604特許のクレーム6は、各モジュールの全てがそれぞれ別の発見的アルゴリズムを有すると解釈した。
(1)comprisingを用いた場合のクレーム解釈
原告は、クレーム6は、オープンエンド形式である「comprising」を使用していることから、少なくとも2つの異なる発見的アルゴリズムを有していれば、侵害が成立すると述べた。
すなわち、イ号製品は、「ブラウザ」及び「People」の2つのモジュールを有し、相互に異なる発見的アルゴリズムを有している。従って、クレーム6の侵害に該当すると主張した。
しかしながら、CAFCはクレーム6においては、各モジュールが固有の発見的アルゴリズムを必要とする明示的な限定がなされているため、そのような主張は認められないと述べた。
(2)包袋禁反言の成立
604特許の審査において、原告は先行技術Andreoliと差別化すべく、以下のことを述べていた。
「しかしAndreoliは、補正後のクレーム1に対して、各ローカル及び遠隔検索オペレーションが、検索要求に係る検索情報の関連領域を検索するための異なる発見的アルゴリズムを有するということを開示していない。」
当該主張は、クレームされた装置における各モジュールが異なる発見的アルゴリズムを使用しなければならないことを強く示唆している。
以上のとおり、クレーム6は、各モジュールがそれぞれ異なる発見的アルゴリズムを必要としていることから、CAFCは、同じ発見的アルゴリズムを有するモジュールを有するイ号製品は、クレーム6の技術的範囲に属さないと判断した。
5.結論
CAFCは、侵害が成立するとした地裁の判断を無効とし、地裁にさらなる審理を行うよう命じる判決をなした。
6.コメント
アップルとサムスンとのスマートフォン訴訟の一つである。イ号製品に対しては8つの特許を用いた権利行使が行われたが、控訴審において問題となったのはそのうちの1件である。
本事件では、文言解釈及び禁反言の法理に基づき、文言上イ号製品が特許の技術的範囲に属さないと判断された。
判決 2012年10月11日
以上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/12-1507.pdf
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