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対象:特許・商標・著作権
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中国外観設計特許の保護範囲
~物品の類似範囲の確定~
中国特許判例紹介(40)
2015年3月6日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野 英仁
福建省晋江市青陽維多利食品有限公司
再審申請人(一審被告、二審被上訴人)
v.
漳州市越遠食品有限公司
再審被申請人(一審原告、二審上訴人)
1.概要
「最高人民法院特許権侵害紛争案件の審理における法律適用についての若干問題に関する解釈」(司法解釈[2009]第21 号)第8条は、外観設計特許の権利範囲に関し、以下のとおり規定している。
第8条
外観設計特許にかかる製品と同一または類似する種類の物品において、登録外観設計と同一または類似する外観設計を採用した場合、人民法院は、権利侵害と訴えられたデザインは専利法第59条第2項[1]に規定される外観設計特許権の権利範囲に属すると認定しなければならない。
すなわち、登録外観設計とイ号製品の物品が同一または類似であり、かつデザインが同一または類似の場合に特許侵害が成立する。しかしながら、物品の類似範囲がどこまでかを巡り争いとなることが多い。
本事件では、特許に係る物品が装飾品であるところ、同様のデザインを採用する食品との間で類否が問題となった。最高人民法院は用途が共通するとして特許に係る物品とイ号製品の物品とは類似すると判断し、外観設計特許権の侵害を認めた[2]。
2.背景
(1)特許の内容
漳州市越遠食品有限公司(原告)は、外観設計特許第200630000974.6号(974特許)を所有している。974特許は2006年1月20日に出願され、2006年12月6日に登録された。物品の名称は「工芸品(パイナップルオードブル)」であり、分類番号は11-02である。参考図1は974特許の図面である。
参考図1 974特許の図面
(2)イ号製品
福建省晋江市青陽維多利食品有限公司(被告)は974特許とほぼ同一のデザインの「オードブルゼリー」(吸うタイプのゼリー)を販売している。
(3)訴訟の経緯
原告は、被告が販売するイ号製品が974特許の侵害に該当するとして中級人民法院に提訴した。
これに対し被告は、以下の反論を行った。
974特許「工芸品(パイナップルオードブル)」と、イ号製品「旺来オードブルゼリー(吸うタイプのゼリー)」は2つの異なる類に属し、比較することができない。974特許は国際意匠分類表第11類装飾類中の11-2であり、小装飾品、テーブル、壁炉台と壁装飾、花瓶及び花盤であり、用途は装飾、機能は居室を飾り付けることと、環境の美化にある。イ号製品の名称はゼリーであり、用途は食用であり、機能はデザート、おやつであり、国際特許分類表では01-99その他雑類項に属する。両者の販売チャンネルは相違し、消費者群も相違し、かつ、イ号製品は賞味期限がある。
中級人民法院は、両者の用途は異なり製品の機能も異なり、かつ、国際意匠分類表中、異なる類別に属することから、両者は非類似物品に該当し、特許権侵害は成立しないとの判決をなした。原告は当該判決を不服として高級人民法院へ上訴した。
高級人民法院は逆に、イ号製品は装飾としても陳列、据え置きが可能であると認定し、両者は類似物品に該当するとして、特許権侵害を認める判決[3]をなした。被告は当該判決を不服として最高人民法院へ再審請求を行った。
3.最高人民法院での争点
最高人民法院では以下の点が問題となった。
争点:物品の類否をどのように判断するべきか
974特許の物品は工芸品であるところ、イ号製品は食料品であった。特許権侵害の成否を判断する上で重要となる物品の類否をどのように判断すべきかが問題となった。
4.最高人民法院の判断
争点:同様の装飾用途を有すること類似物品に該当する
最高人民法院は、国際外観設計分類表は、特許管理部門が外観設計特許出願文書及び文献資料に対し管理を行うためのツールであり、単に物品種類を判断する参考要素の一つに過ぎず、必ずしも物品種類を確定する唯一の依拠ではないと述べた。物品種類が同一かまたは類似かを確定する依拠は物品が同一または類似の用途を有するかであり、また物品の販売、実際の使用状況も用途を認定する参考要素として用いられる。
一審、二審法院が明らかにした事実に基づけば、イ号製品の外形は上から下にかけて3部分に構成されており、頂部は葉であり、葉は上を向いて伸びている。中間層は若干の粒が結びつけられて円柱形の果実を形成しており、円柱形の果実の内部は食用ゼリーが充填されており、各果実の大きさは一致しており、緊密に排列され、低層は台座トレーである。販売時には、頂部の装飾物、低層のトレー及び中間層の円柱形果実は併せて販売される。イ号製品は3層の組み合わせを通じて全体造形がトレー上にのせられたパイナップルを構成している。
製品の実際の使用状況に基づけば、イ号製品は食用以外に、消費者による購買後献上物及び装飾品として装飾効果を発揮することができる。イ号製品の果実中にはゼリーが盛り込まれており食用機能を有するが、イ号製品と対象特許製品は同一の装飾用途を有する。
最高人民法院、特許権侵害紛争案件の審理における法律適用についての若干問題に関する解釈(司法解釈[2009]第21 号)第9条は以下のとおり規定している。
第9条
人民法院は、外観設計にかかる製品の用途により製品の種類が同一または類似するか否かを認定しなければならない。製品の用途を確定する際、外観設計の簡単な説明、国際外観設計分類表、製品の機能及び製品の販売、実際の使用状況などの要素を参考にすることができる。
最高人民法院は、司法解釈第9条の規定に基づき、イ号製品と対象外観設計特許とは同様に装飾用途を有することから、物品種類は類似すると判断した。
5.結論
最高人民法院は、両者が類似物品に該当し、特許権侵害が成立するとした高級人民法院の判決を支持した。
6.コメント
物品及び分類については実施細則第47条に関連規定が存在する。
第47 条
出願人は意匠に係わる物品及びその分類を記載するときは、国務院特許行政部門が公表した意匠製品分類表に従わらなければならない。意匠に係わる製品の区分が記載されない、又は記載された区分が適切でなかったとき、国務院特許行政部門は補正又は修正することができる。
意匠権の効力範囲は、類似する物品に対してまで及ぶこととなるが、物品の類似範囲は物品の用途に重きを置いて判断される。そして製品の用途を確定する場合、外観設計の簡単な説明、国際外観設計分類表、製品の機能及び製品の販売、実際の使用状況等の要素が総合的に考慮される。本事件では分類が相違し、また食用という用途の相違があったものの、双方とも装飾が重要な用途であったため、類似する物品と判断された。
以上
[1] 専利法第59条第2項「外観設計特許権の権利範囲は、図面又は写真に示されたその製品の外観設計を基準とする。」
[2] 最高人民法院2013年9月26日判決 (2013)民申字第1658号
[3]2013年4月2日福建省高級人民法院判決 (2013)閩民終字第65号
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